これまでに、ショ糖添加培地上で子葉緑化が抑制される変異株(sicy-192)を単離し、本変異株がプラスチド型インベルターゼ(INV-E)の機能獲得型変異株であることを明らかにした。sicy-192では、光合成系および窒素同化系遺伝子群の発現がそれぞれ抑制および誘導されていたことから、INV-EはC/Nバランス制御に関与することが示された。ところで、核コードの光合成系遺伝子の発現は、プラスチド遺伝子発現(PGE)を発端としたプラスチドから核への逆行性シグナリング(プラスチドシグナリング)により制御されることが知られている。そこで、プラスチドシグナリングのマスターレギュレーターであるGENOME UNCOUPLED1欠損株(gun1-101)とsicy-192との二重変異株を用いた解析を試みた。sicy-192において、プラスチドコードRNAポリメラーゼ(PEP)の下流遺伝子の発現抑制が見られ、sicy-192変異はPGEを抑制することが明らかになった。さらにsicy-192で見られた光合成系遺伝子群の発現抑制および窒素同化系遺伝子群の発現誘導は、sicy-192 gun1-101二重変異株において部分的に回復していた。sicy-192と二重変異株を用いたマイクロアレイ解析の結果、野生株と比較してsicy-192では1017遺伝子の発現が2倍以上または1/2以下に変化していたが、その約40%にあたる420遺伝子の発現はGUN1欠損により有意に回復していた。それらには、C/N代謝に関わる遺伝子だけではなく、PGE、テトラピロール生合成やプラスチドシグナリングに関連する遺伝子が多く含まれた。従って、sicy-192変異はPGEを抑制し、GUN1を介したプラスチドシグナリングを活性化することによりC/N代謝系遺伝子を含む核コード遺伝子の発現を制御することが明らかになった。
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