植物は多様な二次代謝産物を生産する。これまでの研究から、医薬品原料などになる二次代謝産物は器官間、組織間、細胞内オルガネラ間をダイナミックに移動することが明らかとなってきた。そのため代謝産物の空間的な動態をも制御することが植物を用いた有用物質生産には必要である。本研究では、タバコおよびニコチンアルカロイドをモデルとして、申請者が近年トランスクリプトーム解析から見出したプラスチド局在の新奇トランスポーターT408をターゲットに、トランスポーターを介した生合成中間体の細胞内輸送を解明し、植物を用いた有用物質生産への基盤構築に資することを目的とした。 T408の発現用ベクター(過剰発現、GFP融合タンパク発現、発現抑制)を構築し、アグロバクテリウム法を用いてタバコ植物に形質転換した。T408抗体及びGFP抗体を用いて過剰発現や発現抑制の確認されたT0世代の個体より種子を得、T1世代における発現を確認した。その結果、T1世代においても発現の上昇や抑制などをしている個体が得られた。2012年にシロイヌナズナにおいて、T408の相同タンパク質が5-フルオロウラシル(5-FU)などを輸送することが報告されたため、タバコT408過剰発現体の5-FUの輸送能を検討した。5-FUを含む植物体の生育阻害を指標として解析した結果、予備的な知見ではあるが、若干の地上部の生育阻害が観察され、シロイヌナズナと同様の輸送能を有することが示唆された。また培養細胞においては、T408の発現抑制株を複数単離した。そのアルカロイド生産能を検討したところ、抑制することでニコチンなどアルカロイドの生産能が上昇することが観察された。これら結果より、T408が葉緑体にウラシルなどの化合物を輸送すること、その一次代謝産物の輸送能を制御することで二次代謝産物の生産を向上させうる可能性が示された。
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