研究課題/領域番号 |
23780112
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
榎本 賢 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90546342)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | thiersinine / nodulisporic acid / paspalinine / paspalicine / 殺虫活性 / 全合成 |
研究概要 |
立案した合成戦略の有効性を検証すべく、本年度は最終標的化合物であるnodulispolic acid類縁体の一つであるインドールジテルペンpaspalicine及びpaspalinineの合成研究に従事し、その結果paspalinineの新規全合成を達成したのでその概要を以下に報告する。我々はすでに重要中間体であるインドール部位を有する7環性エノンの合成法を確立しているが、本化合物の合成法についても効率化に成功した。すなわち、シクロプロパン環の解裂により生じたエノラートを5-クロロ-2-ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミノピリジンで処理することで、従来2工程要していたトリフラートの調整をone potで行うことに成功した。その後前述の重要中間体へと導き、これまでに既に得ている知見に基づいて側鎖を延長した。さらにジヒドロキシ化等の数工程の変換によりA. B. Smithらの中間体へと導きpaspalicineの形式合成を完了した。続いて、paspalinineを合成するにあたって最も困難が予想された核環位へのヒドロキシ基導入に取り組んだ。直接的なヒドロキシ基導入は様々な検討にも関わらず不首尾に終わったが、β,γ-不飽和ケトンα位へのフェニルセレネニル基導入とそれに続くセレノキシドへの酸化をone potで行うと、2,3-シグマトロピー転位と生じたセレニニックエステルの加水分解を伴って、立体的に込んだ核環位へヒドロキシ基が導入されることを見出した。このようにして得られた化合物を最後に脱保護することでpaspalinineの新規合成を達成した。以上から本合成戦略の有効性が検証できた。その他に共同研究として、aspartate:alanine antiporter阻害剤を合成することで、その機能解明に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において、本年度は最終標的化合物nodulisporic acidの全合成を目指すにあたり戦略の有効性を検証すべくthiersinine類の合成を計画したが、同様の目的がpaspalinineの合成研究でも果たせると考え、当面の標的化合物を変更した。また過去のpaspalinineの合成経路と比較することにより有効性の優劣が比較できるものと考えたのも理由の一つである。当初の予定では分子右側部位を四酸化オスミウムにより酸化する予定であったが、懸念されたとおり核環位へのジヒドロキシ化の際に、左側インドール部位との酸化の選択性を出すことが困難であった。そこで計画書にて代替案として記載したセレノキシドを導入する手法を試みたところ、首尾よく核環位へヒドロキシ基を導入できた。インドールジテルペン類には同様の位置にヒドロキシ基が存在するものが数多く存在し、本法により類縁体の効率的な合成が可能になることが期待される。多くのインドールジテルペン類に共通する左側部位の合成法はすでに確立していることから、戦略の有効性を検証するという目的はpaspalinineの全合成をもって果たせたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ概ね計画通りに進行しているので、平成24年度はこれまでの知見を生かして最終標的化合物nodulisporic acidの全合成を目指す。加えて、平成23年度までにthiersinine B右側部位やpaspalinineさらにこれらの左側インドール部位が得られているので、これらを利用して構造活性相関研究も実施したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機合成実験、特に本申請のような天然有機化合物の全合成研究では、有機溶媒、試薬等の消耗品を大量に必要とするため、消耗品費を多く計上したい。また、平成23年度にpaspalinineの全合成を達成できたこともあり、本研究計画で得られたこれまでの成果を発表する上で旅費も必須の経費として計上する。現在の研究室においても有機合成に必要な基本設備はほぼ整っているので、平成24年度分には消耗品と旅費のみ計上する予定である。
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