天然に稀にしか存在しない希少糖は,様々な生物活性を示すことから最近注目されている.特にD-alloseは,がん細胞増殖抑制活性を示す一方で,正常細胞に対する毒性を全く示さないことから,副作用の少ない新奇抗がん剤候補化合物として期待されている.しかしながら,D-alloseの絶対的な活性は弱く,作用機構についても不明な部分が多い. 本研究では,まずD-alloseのC-6位水酸基の修飾による活性向上を試みた.その結果,C-6位水酸基をドデカノイル化した誘導体がD-alloseの約30倍高いヒト白血病細胞増殖抑制作用を示すことを明らかにした.次に,D-alloseのfuranose型異性体の存在に着目し,C-5位水酸基のメチル化あるいはデオキシ化,C-1位のメチルアセタール化によって環構造をfuranose型へ制限したD-allose中鎖脂肪酸エステル誘導体の活性を評価した.これらの誘導体はD-glucose中鎖脂肪酸エステルと同等の活性を示したことから,D-allose中鎖脂肪酸エステルのがん細胞増殖抑制活性にはfuranose型ではなくpyranose型が重要であることが示唆された. 最近,D-alloseのがん細胞増殖抑制活性には6位水酸基のリン酸化,がん抑制遺伝子TXNIPの発現上昇が重要であることが明らかにされた.そこで,活性本体と考えられる D-allose-6-phosphateを細胞膜が透過可能なようにプロドラッグ化した誘導体の合成を目指して,合成経路および保護基の検討を行った.その結果,D-alloseならびにD-glucose保護体の6位水酸基を細胞内で切断される側鎖で保護した各種誘導体が得られた.これらの誘導体はD-alloseの作用機構を探るためのツールとして期待される。
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