研究課題/領域番号 |
23780124
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
比良 徹 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10396301)
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キーワード | 消化管内分泌細胞 / 消化管ホルモン / 栄養素受容体 |
研究概要 |
前年度までの研究において、代表的な食品たんぱく質である牛乳カゼインの主要なサブユニットであるα-カゼインが、消化管内分泌細胞株STC-1からのコレシストキニン分泌を強く促進することが見いだされ、この作用における細胞内情報伝達経路を解析した。 α-カゼインによるコレシストキニン分泌は、細胞外のカルシウム除去では影響を受けなかったが、細胞内のカルシウムをキレートするBAPTA-AMにより部分的に抑制され、細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出が一部関与することが示唆された。また、プロテインキナーゼA阻害剤処理およびアデニル酸シクラーゼ阻害剤処理によりα-カゼインによるコレシストキニン分泌が抑制された。さらにα-カゼインに暴露することで、STC-1細胞内のcAMP産生が増加することが見いだされ、α-カゼインがcAMPの産生を介してコレシストキニン分泌を誘導することが示唆された。 また、これまでの研究においてSTC-1細胞での発現が確認されたTRPチャネルの一つであるTransient Receptor Potential Ankyrin-1 (TRAP1)に関して、この阻害剤処理下では、α-カゼインによるコレシストキニン分泌が抑制された。 以上の結果より、食品たんぱく質によるTRPA1の活性化が、細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出、アデニル酸シクラーゼ活性化を介したcAMP産生などの細胞内情報伝達経路を介してコレシストキニンを放出するメカニズムの存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、消化管内分泌細胞において食品たんぱく質や食品ペプチドの受容体を見いだすことであり、遺伝子発現解析により、CCK産生細胞での食品たんぱく質受容体候補の一つとして、細胞膜に発現するTRPA1分子が、乳タンパクの受容に関わることを見いだした点において、おおむね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに消化管内分泌細胞株において見いだされた受容体候補分子について、この分子の発現を抑制することで細胞のホルモン分泌応答が抑制されるかを確かめるため、siRNAによるノックダウンを行う。またin vivoにおける発現を、免疫組織染色などにより解析し、腸管組織中において消化管内分泌細胞に発現するかを明らかにする。受容体の免疫染色を確立した上で、消化管内分泌細胞(CCK産生細胞、GLP-1産生細胞)での発現を調べるために、二重染色をおこなう。 また、受容体候補分子の特異的阻害剤や、既知のアゴニストなどを用いてin vivoにおいて、各種食品タンパク質/ペプチドに対する消化管ホルモン分泌応答を観察することで、in vivoでの受容体の機能を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に、消化管内分泌細胞において候補分子の遺伝子を特異的にノックダウンすることにより、当該分子の食品ペプチド受容体としての機能を明らかにする予定であったが、種々の手法を検討したにも関わらず効果的なノックダウンの手法を確立するに至らなかった。このため、研究の計画に遅れが生じ、当該年度実施予定であった動物での発現、機能解析を次年度に実施することとし、未使用額はその経費および成果発表のための旅費に充てることとしたい。 平成25年度の研究費として、成果発表のための旅費に\300,000、遺伝子ノックダウン、発現解析などの消耗品に\300,000の使用を計画する。
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