研究課題/領域番号 |
23780126
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 亜鉛欠乏 / 摂食 / 睡眠 / 糖代謝 / 血圧 / ラット |
研究概要 |
近年、我が国の若年女性において食事制限や摂食障害が増加している。摂食障害患者の多くには、睡眠障害など睡眠サイクルの乱れもみられる。一方、偏った食生活や食事制限による潜在的亜鉛欠乏が増えており、亜鉛が不足することで食欲不振が起こることも知られている。しかし、亜鉛欠乏が睡眠に及ぼす影響についての報告はない。食事制限を経験した女性が出産した小児では、睡眠・行動変化や生活習慣性代謝変化が生じている可能性も懸念される。そこで本研究では、ラットの成長期からの亜鉛欠乏が、摂食・睡眠に及ぼす影響を追跡することとした。また、妊娠期・授乳期からの潜在的亜鉛欠乏が仔ラットの生活習慣性代謝に及ぼす影響を追跡した。 SD系ラット4週齢に亜鉛欠乏食、低亜鉛食、亜鉛添加食を給餌し、非侵襲的に自発行動量を実時間計測した。その結果、亜鉛欠乏食給餌群の暗期自発行動量は、摂食量低下が見られる飼育4日目で、亜鉛添加食給餌群に比べて有意に増加し、以降減少し続け、14日目頃には明期自発行動量と同程度となった。一方、摂食促進作用を有するオレキシンの血漿中濃度は、4日目(明期)で、ペアフェド群に比べて亜鉛欠乏食給餌群で有意に低下し、亜鉛欠乏食給餌群の摂食量減少にオレキシン分泌低下が関与していると考えられた。オレキシンは摂食促進のみならず睡眠の維持にも重要な役割を果たすため、小動物用睡眠脳波測定システムで睡眠サイクルの追跡を試みている。 次に、授乳期のSD系雌ラットに低亜鉛食、亜鉛添加食を給餌し、仔の糖代謝、血圧を追跡したが、血糖値、収縮期血圧に群間で差は認められなかった。そこで、「妊娠・授乳期ともに低亜鉛食」、「妊娠期のみ低亜鉛食」、「妊娠・授乳期ともに亜鉛添加食」を給餌した3群で検討した結果、妊娠期のみ低亜鉛食給餌群の成長後(11週齢)の仔(5匹中2匹)において、収縮期血圧上昇、経口糖負荷後血糖値上昇が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
母ラットの成長期からの潜在的亜鉛欠乏が摂食・睡眠および仔の代謝・行動に及ぼす影響を明らかにするため、成長期から妊娠期・授乳期にわたり潜在的亜鉛欠乏ラットを作出して検討する予定であった。しかし、成長期からラットに亜鉛欠乏食を給餌すると、暗期自発行動量が著しく低下し、出生率低下、喰殺、育児放棄などが認められ、目的達成のための検討が難しいことが示された。そこで、「成長期からの亜鉛欠乏が摂食・行動に及ぼす影響」と「妊娠期・授乳期からの潜在的亜鉛欠乏が仔の生活習慣性代謝に及ぼす影響」を、それぞれ個別に検討し、結果を得ることができた。以上の理由により、当該年度内での睡眠サイクルの追跡は、進展が遅くなってしまった。なお、当該年度の基金助成金で購入させていただく予定としていた赤外線サーモグラフィーよりも、小動物用睡眠脳波測定システムの方が睡眠の検討に適していると判断し、小動物用睡眠脳波測定システムを購入させていただき、現在検討を進めている。それ以外については、次年度に掲げた検討項目についても検討が進んでいるため、全体としては、「やや遅れている」という自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
成長期からラットに亜鉛欠乏食を給餌すると、暗期自発行動量が著しく低下し、出生率低下、喰殺、育児放棄などが認められ、目的達成のための検討が難しいことが示された。そこで、「成長期からの亜鉛欠乏が摂食・行動に及ぼす影響」と「妊娠期・授乳期からの潜在的亜鉛欠乏が仔の生活習慣性代謝に及ぼす影響」について、それぞれ個別に検討するよう研究計画を僅かに変更し、結果を得ることができた。したがって、次年度に計画していた項目の一部(妊娠期・授乳期からの潜在的亜鉛欠乏が仔の生活習慣性代謝に及ぼす影響)については既に、ある程度、結果を得ている。今後は、(1)睡眠サイクルを追跡する、(2)マイクロダイアリシス法を用いて脳内(視床下部外側野、室傍核、青班核など)におけるノルアドレナリン(ノルエピネフリン:摂食促進作用)、ドーパミン、セロトニン放出量を非侵襲的に追跡する、(3)セロトニンと同様、トリプトファンから誘導されるメラトニン(睡眠促進作用)の血漿中・脳脊髄液中濃度をELISA法にて測定する、ことが必要となる。 なお、当該年度の基金助成金で購入させていただく予定としていた赤外線サーモグラフィーよりも、小動物用睡眠脳波測定システムの方が、睡眠の検討に適していると判断し、小動物用睡眠脳波測定システムを購入させていただいたことから、購入価格の低下が実現し、その分、次年度使用額として使用させていただけることとなった。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験動物は、6群( =(1)成長・妊娠・授乳期ともに低亜鉛食(2)成長・妊娠期のみ低亜鉛食(3)成長期のみ低亜鉛食(4)授乳期のみ低亜鉛食(5)妊娠・授乳期のみ低亜鉛食(6)成長・妊娠・授乳期ともに亜鉛添加食)10匹(=60匹)のSD系雌ラット(60匹×@2千円=12万円)とし、それらの飼育に対する精製飼料として8万円必要である。 1.潜在的亜鉛欠乏がラットの睡眠サイクルに及ぼす影響:小動物用睡眠脳波測定システムを用い、ラットの睡眠脳波を非侵襲的に実時間追跡する。 2.潜在的亜鉛欠乏がラットの脳内でのノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン放出に及ぼす影響:マイクロダイアリシス法を用い、脳内(視床下部外側野、室傍核、青班核など)におけるノルアドレナリン(ノルエピネフリン:摂食促進作用)、ドーパミン、セロトニン放出量を非侵襲的に追跡する。マイクロダイアリシス用透析プローブとして60万円必要となる。 3.潜在的亜鉛欠乏がメラトニン分泌に及ぼす影響:セロトニンと同様、トリプトファンから誘導されるメラトニン(睡眠促進作用)の血漿中・脳脊髄液中濃度をELISA法にて測定する。生化学キット+ELISAキットとして、20万円+次年度使用額が必要となる。 旅費、人件費・謝金、その他については、申請時の計画どおりで考えている。
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