研究課題/領域番号 |
23780127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 誠 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特任助教 (40409008)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 食品 / 糖尿病 / 胆汁酸 / 機能性食品 / GPCR |
研究概要 |
TGR5を活性化する機能性食品成分のスクリーニングで得られた成分の中で、特にノミリンに注目して研究を行った。ノミリンは柑橘類に含まれる苦味成分であり、培養細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにおいて強いTGR5活性化能が認められた。TGR5は褐色脂肪組織に高発現している。まず、培養細胞を用いて内在性TGR5に対するノミリンの活性化能を検討した。褐色脂肪細胞のモデルとして、p53欠損マウスの肩甲骨間褐色脂肪由来の株化細胞HB2を用いた。HB2細胞を褐色脂肪細胞へ分化させた後にノミリン処理を行い、mRNAを回収した。リアルタイムPCRによる解析の結果、TGR5の標的遺伝子であるDio(deiodinase)-2の発現増加が認められた。この結果から、ノミリンは内在性のTGR5に対してもリガンド活性がある事が示された。次に個体レベルでのノミリンの効果を検討するため、高脂肪食負荷マウス(DIOマウス)を用いた実験を行った。褐色脂肪組織のmRNAを解析した結果、ノミリン添加によりTGR5の標的であるDio-2や PGC-1aの発現増加が認められた。また、ノミリン添加マウスでは非添加マウスと比較して体重及び白色脂肪組織(精巣上体)重量の有意な減少が認められた。血中成分の解析の結果、ノミリンによる、血中グルコース、インスリン、トリグリセリド、遊離脂肪酸の有意な減少が認められた。更に、経口ブドウ糖負荷試験による検討の結果、ノミリンによる耐糖能の改善が認められた。これらの結果より、ノミリンは個体レベルにおける抗肥満・抗糖尿病効果を示す事が示された。以上の事から、ノミリンはTGR5を活性化し、抗肥満・抗糖尿病効果を有する食品成分である事が示された。この研究成果はBiochem. Biophys. Res. Commun誌に掲載された(Ono et al., 2011. 410, 677-681)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究実施計画は(1)褐色脂肪細胞・小腸の内在性TGR5を活性化する食品成分の解析、及び(2)個体レベルでのTGR5活性化食品因子の抗肥満・抗糖尿病効果の検討であった。本研究では、スクリーニングにおいて強いTGR5活性化能が認められたノミリンに注目して実験を行った。研究実施計画(1)に関しては、褐色脂肪細胞のモデルとして用いたHB2細胞での実験を行った。ノミリン添加によりTGR5の標的遺伝子であるDio-2の遺伝子発現の増加が見られた事から、ノミリンは褐色脂肪細胞の内在性TGR5を活性化する事が示された。一方、小腸細胞の実験に関しては、マウス由来の小腸内分泌細胞STC-1細胞を用いて遺伝子発現解析、及びGLP-1分泌の検討を試みた。しかし、mRNAを解析した結果、STC-1細胞におけるTGR5の発現量が非常に低い事が分かった。このため、TGR5を高発現するSTC-1細胞の樹立を行っている。次に、研究実施計画(2)に関しては、DIOマウスにノミリンを添加する実験を行った。その結果、褐色脂肪組織においてTGR5の標的であるDio-2やPGC-1aの発現増加が見られた。更に、ノミリンによる体重及び白色脂肪重量の減少、血中成分(グルコース、インスリン、トリグリセリド、脂肪酸)の減少が認められた。更に、グルコース負荷試験による解析からノミリンは耐糖能を改善する事が示された。これらの結果から、ノミリンは個体レベルでもTGR5を活性化し、抗肥満・抗糖尿病効果を有する事が示された。以上の事から、小腸細胞の実験は検討段階であるが、ノミリンを中心とした研究で研究実施計画(1)、(2)をほぼ達成できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、我々はTGR5を活性化する食品成分ノミリンを同定し、その抗肥満・抗糖尿病効果を明らかにしてきた。ノミリン以外にも、我々はスクリーニングによりTGR5を強く活性化するいくつかの食品成分を同定している。これらの食品成分も、ノミリンと同様にTGR5活性化を介した抗肥満・抗糖尿病効果を有する事が期待される。この事から、これらの食品成分の内在性TGR5の活性化の有無、及び個体レベルでのTGR5活性化を介した抗肥満・抗糖尿病効果を検討する。具体的には、まず褐色脂肪細胞のモデルであるHB2細胞を用いた実験を行う。TGR5の標的であるDio-2などの遺伝子発現解析を行い、食品成分による内在性TGR5の活性化の有無を検討する。HB2細胞においてTGR5活性化能が認められた食品成分に関しては、DIOマウスを用いた個体レベルの検討を行う。高脂肪食に食品成分を添加し、褐色脂肪組織におけるTGR5の標的遺伝子の遺伝子発現解析、体重、血中成分、耐糖能の解析を行う。ノミリンを含め、これらの実験で強いTGR5活性化能、抗肥満・抗糖尿病効果が認められた食品成分に関しては、DNAマイクロアレイによる標的遺伝子の網羅的解析を行い、GO(gene ontology)を用いたコンピューター解析より、食品因子がどの代謝経路を調節しているか解析する。このマイクロアレイ解析により、同定した食品成分の標的遺伝子・機能を明らかにする。以上の実験から、スクリーニングで同定した機能性食品のTGR5活性化を介した抗肥満・抗糖尿病効果、及びその作用機序を明らかにする。また、上記の実験で得られた結果をまとめ、学会で成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、公費申請書の研究実施計画に記載した実験及び、上記の細胞培養実験を行い、その必要経費に本助成金を用いる。具体的には、培養細胞実験に必要な消耗品(培地、血清、RNA解析に必要な試薬類)、動物実験に用いる消耗品(実験用マウスの購入・維持、高脂肪食などの実験用・飼育用の餌、マウス投与用の薬剤・食品成分、血中成分の解析キットなど)、DNAマイクロアレイに必要な消耗品(DNAチップや関連試薬)、及び旅費(学会における研究成果発表、本研究と関連ある発表内容の情報収集)のための費用である。
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