研究課題/領域番号 |
23780132
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北浦 靖之 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90442954)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | がん / 中鎖脂肪酸 / 細胞死 / 分岐鎖アミノ酸 |
研究概要 |
がん細胞は、グルコースのほとんどを解糖系でのみ利用し、ミトコンドリアでの酸素を利用した酸化的リン酸化による完全酸化がほとんど起こらない独特の代謝状態にある。このがん細胞特有の代謝状態を変換することにより、細胞死を誘導できることから、本研究では、分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝促進による細胞死誘導効果と、その分子メカニズムの解明、抗腫瘍効果について明らかにすることを目的とする。 まず、BCAA代謝を促進する薬剤としてクロフィブレート、α-クロロイソカプロン酸を用いたが、がん細胞死誘導効果が見られた濃度では正常細胞に対しても毒性を示した。そのため、他のBCAA代謝を促進する薬剤として中鎖脂肪酸であるカプリル酸(炭素数8)を用いたところ、正常細胞に対する毒性が低い濃度でも、がん細胞に対して細胞死を誘導することを明らかにした。さらに、炭素数6から12の各種中鎖脂肪酸のがん細胞に対する細胞死誘導効果を調べたところ、炭素数12のラウリン酸で最も強い効果が示された。しかし、ラウリン酸のBCAA代謝促進効果はほとんどないことから、BCAA代謝促進による細胞死誘導とは別の経路により細胞死を誘導する可能性が示唆された。一方、siRNAによるBCAA代謝阻害遺伝子(BDK)のノックダウンは、BCAA代謝を促進し、がん細胞の増殖抑制効果が見られるが、現在、正常細胞でのノックダウン効果、細胞毒性について検討中である。 また、上記の実験でがん細胞死誘導効果が見られたラウリン酸について、がん細胞を移植したマウスに対するがん抑制効果を調べたところ、顕著な抑制効果が見られた。さらに、発癌誘発剤によりがんモデルマウスを作製したところ、肝がん、および大腸がん、それぞれ発症が確認できたことから、現在、これらのがんモデルマウスを用いたラウリン酸のがん抑制効果について、検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた薬剤では毒性が強く、予定した実験に用いることができなり、他の薬剤で再検討する必要があったが、その中で中鎖脂肪酸によるがん抑制効果という新たな知見が得られた。また、予定していたがんモデルマウスの作製も完了している。
|
今後の研究の推進方策 |
ラウリン酸による細胞死誘導の分子メカニズムを解明するため,がん細胞としてヒト子宮頸癌由来細胞HeLa、ヒト繊維芽肉腫由来細胞HT1080、正常細胞としてヒト正常2倍体繊維芽細胞MRC-5を用いて、ラウリン酸を含む培地で培養した後、TCA回路を介した酸化的リン酸化により産生される物質およびミトコンドリアの機能障害により誘導される細胞死誘導因子の活性化などを測定する。また、BCAA代謝促進による細胞死誘導効果とその分子メカニズムを解明するため,siRNAを用いてBCAA代謝を阻害する遺伝子(BDK)を正常細胞でノックダウンさせ、正常細胞に対する毒性について調べるとともに、がん細胞、正常細胞にsiRNAをトランスフェクションし、上記と同様の実験を行う。これらの実験で変化の見られた代謝物の合成・分解酵素、細胞死誘導因子の阻害剤、またsiRNAを用いた遺伝子ノックダウン法により、目的遺伝子の機能を抑制した場合のラウリン酸およびBCAA代謝促進による細胞死誘導効果に対する影響を調べる。 肝がんおよび大腸がんモデルマウスを、標準食(AIN93G)または標準食に含まれる脂質成分中ラウリン酸を多く含む高ラウリン酸食を与え、一定期間おきに血液を採取し、血中腫瘍マーカー濃度を測定することにより癌の進行を調べる。また、一定期間後、各組織を採取し、その重量、腫瘍の数・大きさを調べるとともに、組織切片を作製し、病理解析および組織染色を行う。また、一部組織からタンパク質を抽出し、細胞死誘導因子の発現量、ならびにリン酸化量をWestern blottingにより調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
主に消耗品として、ラウリン酸およびBCAA代謝促進による細胞死誘導の分子メカニズム解明のための各種細胞死誘導因子や代謝物の検出試薬・阻害剤等、がんモデル動物作製のための実験動物、がん誘発剤、実験飼料等および腫瘍マーカー等の検出試薬に使用する予定である。また、本研究成果を国内外の学会で発表するとともに情報収集するための旅費に使用する予定である。
|