がん細胞は独特の代謝状態にあり、それを変換することにより細胞死を誘導できることから、本研究では、分岐鎖アミノ(BCAA)代謝促進による細胞死誘導効果と、その分子メカニズムの解明、抗腫瘍効果について明らかにすることを目的とした。BCAA代謝を促進する薬剤のうち中鎖脂肪酸であるカプリル酸(炭素数8)を用いたところ、正常細胞に対する毒性が低い濃度でも、がん細胞に対して細胞死を誘導することを明らかにした。さらに、炭素数6から12の各種中鎖脂肪酸のがん細胞に対する細胞死誘導効果を調べたところ、炭素数12のラウリン酸で最も強い効果が示された。しかし、ラウリン酸のBCAA代謝促進効果はほとんどないことから、BCAA代謝促進による細胞死誘導とは別の経路により細胞死を誘導する可能性が示唆された。また、ラウリン酸に不飽和脂肪酸を組み合わせることにより、細胞死誘導効果が促進されることを見いだした。さらに、ラウリン酸と様々な不飽和脂肪酸を用いて評価したところ、不飽和脂肪酸の不飽和度を大きくすることでがん細胞の生存率が著しく低下した。様々ながん細胞を用いて、その効果を調べたところ、がん細胞種により違いが見られ、細胞死誘導反応が異なることを明らかにした。しかし、それぞれの細胞に共通して脂肪滴の蓄積がみられたことから、その原因を探ってみたところ、ラウリン酸には長鎖脂肪酸の取り込みを促進する効果が認められた。このことから、ラウリン酸には脂肪酸の取り込みを促進することで、ある特定のがん細胞を強力に死滅させることを明らかにし、脂肪酸の組み合わせによるがん治療法として期待できる。
|