研究課題/領域番号 |
23780135
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 卓弥 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (30526695)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | フラボノイド / ストレス / 消化管バリア機能 |
研究概要 |
精神的ストレスが引き起こす消化器疾患の発症要因として、消化管バリア機能の脆弱化が提案されている。申請研究は、精神的ストレスが引き起こす、消化管バリア機能異常を究明するとともに、それを軽減できる食品成分として、フラボノイドの役割を探索することを目指す。本年度は、まずヒト消化管上皮Caco-2細胞を用いて、消化管バリア機能強化作用を有するフラボノイド類をスクリーニングした。結果として、10種類のフラボノイド類のうち、ケルセチンとヘスペレチンに強いバリア機能強化作用が見出された。そこで次に、精神的ストレスモデルラットを用いて、これらフラボノイド類による消化管バリア機能保護作用、抗炎症作用を探索した。ラットへのストレス負荷は、小腸のデキストラン透過性を高め、バリア機能の低下を誘導したが、ケルセチンとヘスペレチンを予め摂食したラットでは、そのバリア機能低下が抑制された。さらにストレス負荷は、小腸組織の炎症性サイトカインTNF-α発現量を高める傾向を示したが、これらフラボノイド類の摂取により抑制され、これら2種のフラボノイド類にはストレスによる消化管バリア機能損傷と炎症惹起を軽減することが示された。続いて、Caco-2細胞を用いて、ケルセチンとヘスペレチンによる消化管バリア機能保護作用の分子機序を探索した。TNF-αは、タイトジャンクション(TJ)タンパク質Occludinの発現低下を引き起こし、バリア機能を損傷させたが、ケルセチンを予め作用させたCaco-2細胞では、TNF-αによるバリア機能の低下が抑制された。さらに、その作用機序としてOccludinの発現低下抑制とClaudin-4の発現増加が提案された。しかしながら、ヘスペレチンはTNF-αに対する抑制作用を示さず、ケルセチンとは異なる機序で消化管バリア機能を保護することが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)消化管バリア機能活性化作用を有する候補フラボノイドを選抜する、(2)精神的ストレス動物モデルにおいて、消化管TJバリア機能の低下に対する候補フラボノイドの軽減作用を解析する、(3)精神的ストレス培養細胞モデルを構築する、を計画していた。「研究実績の概要」に記述した通り、消化管バリア機能活性化作用を有する候補フラボノイドとして、ケルセチンとヘスペレチンを見出し、さらにストレス負荷動物において、それら2種のフラボノイド類の消化管バリア機能保護作用、抗炎症作用を確認した。さらに、ストレスによる消化管バリア機能の一因と考えられる、炎症性サイトカインに対して、ケルセチンがタイトジャンクションタンパク質の発現量の調節を介して、防御作用を示すことを明らかとした。これらの成果は、本年度の目標とおおむね達成しているものである。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本年度は計画通りの進捗ができたため、今後も引き続き「研究計画調書」に記述した計画に沿って研究を進める。つまり、まずストレス動物モデルでTJ機能保護作用が認められたケルセチン、ヘスペレチンについて、ヒト消化管上皮細胞を用いて、保護作用の分子メカニズムを解明する。TJタンパク質の量・質的動態を免疫学的手法にて解析する。量的変動が認められたTJタンパク質については、関連する転写因子を、質的変化(細胞内分布の変化)が認められたTJタンパク質については、そのリン酸化動態を解析する。また、上皮細胞におけるフラボノイドの作用点も含め、作用に関連する細胞内シグナル経路を特定する。次に、質的およびリン酸化の変動が認められたTJタンパク質について、そのリン酸化部位を同定する。リン酸化TJタンパク質濃縮画分の二次元電気泳動サンプル、あるいはTJタンパク質の免疫沈降物を用いて、LC/MS/MSによりリン酸化部位を網羅的に同定する。続いて、同定されたTJタンパク質のリン酸化の細胞生理学的役割を解明するため、TJタンパク質のリン酸化部位の変異発現ベクターおよび組み換え体発現ベクターを構築する。組み換えタンパク質を調製し、リン酸化の責任キナーゼを同定する。また、Caco-2細胞に変異タンパク質を発現させ、細胞内動態、リン酸化、フラボノイドへの感受性の変化を解析する。これら一連の実験により、精神的ストレスが引き起こす、消化管バリア機能の破たんメカニズムを究明し、それを軽減できる食品成分フラボノイドの役割を探索することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策に基づき、物品費として、培養細胞器具、培養細胞試薬、抗体類、シグナル阻害剤、プラスチック器具類に使用する。また、成果を発表する学会参加のための旅費、論文作成のための英文校閲費も計上する。
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