本研究では最も身近な生活習慣病であるう蝕のリスク低減を目的としている。2011年度はう蝕病原因子であるStreptococcus mutans由来グルカンスクラーゼ(GSase)の発現精製系を構築し、立体構造の解明に成功した。2012年度はGSaseとその阻害剤およびアクセプター基質との複合体構造を明らかとすることで、その相互作用の詳細を解明した。 これらの知見に続き、2013年度はGSaseの活性阻害効果を迅速・簡便に評価可能なアッセイ系を構築し、市販の飲料、および食品由来のポリフェノール類等について阻害効果を解析した。その結果、緑茶カテキン等に高いGSase阻害効果がみとめられた。現在これらポリフェノール類とGSaseの複合体構造の解析を進めている。一方、GSase阻害との相乗効果を得ることを目的に、GSase以外の標的分子へ作用するう蝕リスク低減食品素材を探索した結果、ある種のペプチド類にS. mutansの生育阻害効果があることを見出した。この効果は静菌的であり、分子メカニズムは細胞内ADP/ATP比の顕著な増加によるものであることが示された。類似ペプチドの生育阻害効果を解析した結果、ペプチドの生育阻害効果にはそのアミノ酸配列が重要であり、特定の側鎖を有するアミノ酸残基が特定の位置に存在することが活性に重要であることが明らかとなった。細胞内へのペプチド取り込みを迅速・簡便に測定できるシステムを開発したため、このシステムを用いて詳細なメカニズムを解析中である。今後、GSase阻害剤とS. mutans生育阻害物質を同時に利用することで、う蝕リスクの効果的な低減が期待される。
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