日本人を含む東洋人型2型糖尿病では、膵β細胞の減少を伴ったインスリン分泌不全が頻発する。また、日本人の2型糖尿病患者では、テストステロンレベルが低い。そこで本研究では、まずβ細胞におけるテストステロンシグナルの役割を評価し、さらに、食品因子とのクロストークを解明することを目的とした。Wistar系雄性ラットのβ細胞にアンドロゲン受容体(AR)が発現することを明らかにした。β細胞の増殖に及ぼすテストステロンの影響を調べた結果、増殖の指標となるproliferating cell nuclear antigen の発現レベルが去勢によって減少し、テストステロンの補充によって回復することが明らかになった。ラットβ細胞株であるINS-1細胞から単離したARを高発現するINS-1 #6株を用いて、テストステロンがARを介して細胞増殖を亢進することを明らかにした。INS-1細胞では、高グルコース条件下(22.2 mM)あるいはピルビン酸(50 mM)の添加によってARの発現が低下することを見出した。高グルコースによるARの発現の低下作用は、プロテアソーム阻害剤存在下では観察されなかった。AR発現量の低下は、高グルコースによるカルシウムシグナルの亢進が関与し、分泌されたインスリンの影響ではないことが明らかとなった。さらに、高グルコース環境では、テストステロンによる細胞増殖促進作用が観察されなかった。また、大豆イソフラボンであるダイゼインが腸内細菌によって代謝されて産生するS-エクオールが、β細胞の増殖を促進する作用を持つことを見出した。S-エクオールはテストステロンと協調的にINS-1 #6細胞の増殖を促進した。本研究によって、β細胞の増殖におけるテストステロンシグナルの重要性が明らかとなり、食品因子との有益なクロストークが存在する可能性も示された。
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