研究課題
温暖化をはじめとする気候変動によって地中の炭素循環が大きく影響を受けることが示唆されているものの、そのメカニズム、特に、森林における植物根と植物遺体由来の有機物の動態にはいまだ不明な点が多い。本研究では、植物組織の構造や有機物組成に関連する情報を得られる近赤外波長の分光反射画像を取り入れた、地中の有機物動態を観測する新しい手法の開発を目指した。初年度は可視バンドと近赤外バンドの両方を撮影できるスキャナーシステムの開発を行い、次年度から最終年度にかけては、土壌温暖化や野外窒素負荷操作実験を行っている森林の地中画像(根や土壌、腐植)を撮影して、その有効性を検証した。通常のスキャナーで用いられている可視バンド画像と比較して、近赤外画像では、砂質土壌、有機物、樹木根およびリターの判別が容易になることが示された。そして、根の形状や理化学性(太さや組織密度、比根長、炭素含量)とスペクトルの関係を調査した結果、カラーバンド(赤あるいは緑)と近赤外1バンドの組み合わせで作成した簡易指標でも比較的高い精度で画像から炭素量が推定できることが判明した。同時に進めた温暖化による炭素動態への影響観測では温度上昇による地中からの炭素放出の増加が認められた。微生物呼吸は一様に増加していたが、根からの炭素放出の増加は特に春先と秋に顕著であり、画像観測による根フェノロジーの変化との関係性も示唆された。本研究の成果としては、(1)可視―近赤外画像から地中炭素の推定ができるようになったこと、(2)地中温暖化の影響を炭素ベースの根のフェノロジー変化で推定する手法ができたことである。これらの成果は、図書1報、学会発表4回で公表した(現在、国際樹木根学会での発表ならびに国際誌への投稿準備を進めている)。
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