近年多発している樹木の大量枯死の結果、日本各地の林床には大量の倒木が蓄積しているが、それが森林の生態系にどういった影響を与えているのかについては明らかになっていない。本研究では、「マツ枯れ」により枯れたアカマツの倒木をモデル材料とし、倒木を腐朽させる菌類と倒木上に生育している木本植物の間の相互作用を解明することにより、マツ枯れ後の森林の更新におけるアカマツ倒木およびその腐朽型の重要性を明らかにする。得られた結果をもとに、樹木の大量枯死の「その後」の森林管理における一指針を提示することが本研究の目的である。 平成25年度は、本邦における緯度勾配とアカマツ倒木の腐朽型の関係に関する野外調査の最終地点として、長野県伊那市において調査を行った。これにより、本研究における調査地点は合計30カ所となり、緯度勾配との関係を解析するのに十分な地点数のデータを集めることができた。結果から、アカマツ倒木の腐朽型の頻度に緯度勾配があり、気温および降水量との有意な相関関係が検出された。さらに、うち9地点において倒木上の樹木実生の調査を行った結果、倒木上の実生更新が腐朽型の影響を受ける樹種があることが分かった。以上の結果から、気候条件によりアカマツ倒木の腐朽型が異なり、それにより倒木上の実生更新が影響を受ける可能性が示唆された。本研究に関連する成果は、平成25年11月に発行された日本生態学会誌63巻3号において、「枯死木をめぐる生物間相互作用」という特集を企画し、その中で論文として発表したほか、平成26年3月に広島において開催された第61回日本生態学会大会において、「分解系における生物群集の構造と生態系機能」という自由集会を企画し、その中で発表した。本研究で得られた結果は、倒木更新のメカニズムに新たな知見を加えただけでなく、将来的に気候変動の影響予測の研究にもつながる重要なものである。
|