研究課題/領域番号 |
23780159
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
松尾 奈緒子 三重大学, 生物資源学研究科, 講師 (00423012)
|
キーワード | 水利用効率 / 気孔コンダクタンス / 同位体分別 / Craig-Gordonモデル / 通水コンダクタンス |
研究概要 |
本研究の目的は安定同位体比を用いた塩生植物の耐塩性指標を開発することである。そのための対象植物として当初予定していた中央アジア・ウズベキスタンに生育するタマリスクではなく、エジプト紅海沿岸に生育するヒルギダマシのサンプルをたくさん入手できたので、それらの炭素・酸素安定同位体比を測定した。 長期平均的な水利用効率を反映する葉の炭素安定同位体比は、同一林分内の低塩分区に生育する高木個体では平均値が低く、ばらつきが大きかったのに対し、高塩分区に生育する矮小個体では平均値が高く、ばらつきが小さかった。また、長期平均的な気孔コンダクタンスを反映する葉の酸素安定同位体比は高い位置にある葉ほど低い値であった。これらの結果から明らかになった葉の生理特性を枝の形態とあわせて考察すると、高塩分区の矮小個体よりも長短様々な長さの枝を伸ばしている低塩分区の高木個体の場合、枝の長さが長くなるほど根から吸水した水の輸送経路長が長くなり、通水コンダクタンスが低くなるので葉の水利用効率を上昇させて対応していると考えられた。また、葉の炭素・酸素安定同位体比は個体内分布が大きいことから、個体どうしの耐塩性の比較に利用する際は注意を要することがわかった。 さらに、現地観測での結果を検証するため、ガラス室内でヒルギダマシの苗木に0、1、2、3%NaCl溶液を与えて育てる実験を行った。その結果、成長量は2%個体で最大となるなど差が出たが、葉の炭素・酸素安定同位体比には処理間で差がなかった。前年の予備実験では差が出たことや、枯死個体が多く繰り返し数が十分確保できなかったこと、葉数が少なく塩水を付加する前と後の葉を区別して分析できなかったことから実験は失敗であったと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地観測では計画どおり順調に成果が出てきている。一方、ヒルギダマシの苗木を用いた塩水付加実験は失敗してしまったため、現地観測で得られた結果の実験検証はできなかった。ヒルギダマシの水耕栽培は技術的に難しいとされ、過去の成功例が少ないのは承知していたが、他の樹種で成功された方の協力と助言を得て挑戦したのだがうまくいかなかった。この点がやや遅れていると判断した理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
フィールドでは塩分条件だけでなく水分や養分の条件も変化することから、塩分の影響だけを抽出するのは難しいと考え、コントロール実験を試みたがうまくいかなかった。そこで、フィールドで観測した温度や湿度の空間分布などの微環境条件と葉の酸素安定同位体比の関係をCraig-Gordonモデルなどを用いてより詳細に解析することで、葉の酸素安定同位体比から気孔コンダクタンスを評価する手法を確立する。また、現地で光合成速度と気孔コンダクタンスの瞬間値の測定を行い、葉の安定同位体比を用いた評価結果の支持データを集める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
葉サンプルの残りの分析に要する試薬や器具を購入する。また、旅費はあと1回現地観測を予定しているのでそれに使用する。分析補助費や印刷代も計上している。
|