本研究課題では、安定同位体比に基づく乾燥地植物の耐塩性の評価指標の開発に取り組んだ。植物の耐塩メカニズムを「塩の回避」、「塩の排出」、「塩への耐性」の3つに分類し、そのうちの多くが水の酸素安定同位体比、葉の酸素・炭素安定同位体比、葉の化学組成を指標として評価できることを中央アジアなどでの野外観測や国内での苗木実験によって示した。 例えば、中央アジアの塩生植物において、根を伸ばして塩分濃度の低い地下水や深層土壌水を利用する、あるいは土壌表層の塩分濃度の低下する雨季のみ成長するなどの「塩の回避」を茎中の水の酸素安定同位体比から評価した。さらに、中央アジアの塩生植物およびスーダン紅海沿岸の塩生植物(ヒルギダマシ)において、土壌塩分濃度の上昇に対して水利用効率を上昇させる「塩への耐性」を葉の炭素安定同位体比から評価するなどした。 また、中央アジアの塩生植物のひとつタマリスクにおいて、土壌塩分濃度の上昇にともない葉の酸素安定同位体比と枝内の水の酸素安定同位体比の差が増加したことから塩ストレスの増加に対して気孔を閉鎖して蒸散量を減らし、塩吸収量を抑えていたことが評価できた。これに対し、国内で育てたタマリスクやヒルギダマシの苗木では塩分濃度の上昇にともなって気孔コンダクタンスが低下し、蒸散量も低下していたのにもかかわらず、葉の酸素安定同位体比は理論どおりの反応を示さないことがわかった。なぜこのような相反する結果が得られたのか、その解明が新たな課題として残された。
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