研究課題/領域番号 |
23780169
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研究機関 | (財)岩手生物工学研究センター |
研究代表者 |
金野 尚武 (財)岩手生物工学研究センター, 生物資源研究部, 研究員 (60549880)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | バイオマス / 酵素反応 / 糖鎖 / 森林工学 / 応用微生物 |
研究概要 |
きのこ類に含まれるβ-1,3/1,6グルカンは免疫賦活機能をもつことが知られている。しかしながら、モデル材料を合成できない等の理由から、免疫賦活機作に関する分子レベルでの根拠が不足している。機能性グルカンには側鎖構造が重要だと考えられている。当研究グループでは既にシイタケからβ1,3およびβ1,6グルカナーゼの単離に成功している。糖質加水分解酵素の多くは、その逆反応である転移反応も触媒する。また、活性中心に変異を加えることで転移活性能が増大することも知られている(合成酵素化)。そこで、今年度はきのこ類グルカナーゼ群の単離および異種発現系の構築を行い、さらに、これら加水分解酵素群の合成酵素化に向けた活性中心変異体の作成に成功した。 これまでの検討で、シイタケ子実体からエンド型β1,6グルカナーゼ(LePus30A、GH30)が得られており相同性の高いタンパク質が担子類に広く保存されていることが明らかとなった。そこで、ウシグソヒトヨタケのホモログ(CcPus30A)の単離し、こうじ菌(Aspergillus oryzae)に導入した。その結果、50 kDaのタンパク質を得ることができた。精製組み換えタンパク質はエンド型のβ1,6グルカナーゼ活性を有した。配列解析結果、CcPus30Aでは228番目と323番目のグルタミン酸が活性中心残基であると予想された。そこで、それぞれについてアラニン(E228A、E323A)、グリシン(E228G、E323G)、セリン(E228S、E323S)の変異体を作成した。こうじ菌を用いて発現させたタンパク質は何れもβ1,6グルカナーゼ活性を示さなかったことから、この2つのグルタミン酸が活性中心残基であることが示された。今後は、これら変異酵素とフッ化糖(α-フッ化グルコピラノシド)を用いて分岐型β-1,3/1,6グルカンの合成反応の検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、キノコ類から単離したβグルカナーゼの糖転移活性を利用して、抗腫瘍作用を示さない種々のβグルカン基質に、側鎖導入を行い、機能性β1,3/1,6グルカンを人為的に合成する手法の確立を目的とする。平成23年度は主にその材料となるβグルカナーゼの単離と異種発現を進めた。 シイタケ子実体から単離したエンド型β1,6グルカナーゼ(LePus30A、GHファミリー30)は遺伝子配列において相同性の高いタンパク質が担子類に広く保存されていた。そこで、その中の1つウシグソヒトヨタケのホモログ(CcPus30A)をクローニングした。本遺伝子をこうじ菌を用いた異種発現系に導入し、組み換えタンパク質を得ることに成功した。組み換え体はシイタケ由来の酵素と同様にエンド型β1,6グルカナーゼ活性を示し、本検討に利用できることが判明した。 糖質加水分解酵素群の一部は活性中心に変異を加えることで転移活性能が増大することも知られているため、GHファミリー30のタンパク質群のマルチアライメントの結果から、活性中心に存在する2つのグルタミン酸(E228、E323)を予想し、それぞれについての変異体を作成した。アラニン(E228A、E323A)、グリシン(E228G、E323G)、セリン(E228S、E323S)の変異体を作成し、こうじ菌により発現させることができた。これら変異酵素群はβ1,6グルカンに対して加水分解活性を持たないことから、合成酵素化できたと予想される。以上のことから当初に計画以上の結果を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
β1,3/1,6グルカンの酵素合成に必要なβ1,6グルカナーゼ(LePus30A、CcPus30A)およびその変異体(E228A、E323A、E228G、E323G、E228S、E323S)、計8種類を得ることができた。酵素群の中から、側鎖導入および主鎖の伸長に作用するグルカナーゼをスクリーニングする。酵素群をそれぞれ微生物由来(カードラン、パキマン等)や海藻由来(ラミナリン、ラミナリオリゴ糖等)のβグルカン(1%程度)に、グルコースまたはα-フッ化グルコピラノシド存在下(50 mM以上)、酢酸緩衝液(pH4.2)中で作用させ、反応溶液中のグルコース残存量をHPLC-PAD(陰イオン交換カラム)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、グルコース定量キットを用いて測定し、高い転移活性を持つグルカナーゼを選抜する。転移活性が確認されたグルカナーゼについてはさらに基質特異性やpH、温度、金属等の影響を調査し、これら酵素群の基礎的な性質を検討する。グルカナーゼによる糖転移反応によっては反応液中の水濃度がその触媒効率に影響する。そこで、アセトニトリルを任意の濃度で反応液中に加えるなどの工夫を行い、最適条件を決定する。また、下記の3つの反応系(手法1-3)を順次適用する予定。手法1)直鎖グルカン多糖にグルコースをそのまま転移させる;手法2)直鎖グルカン多糖にフッ素を還元末端に結合させたフッ化糖を用いる;手法3)フッ化糖を用いて分岐オリゴ糖を合成後、これらオリゴ糖の主鎖部分をつなぐ。そのためのフッ化糖の合成も順次進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、βグルカナーゼ(LePus30A、CcPus30A)およびその変異体(E228A、E323A、E228G、E323G、E228S、E323S)を用いてβ1,3/1,6グルカンの酵素合成および条件検討を進める。その際に必要な酵素精製用カラム、タンパク質電気泳動用試薬、ウエスタンブロティング用試薬、基質となる糖類(カードラン、バーリーグルカン、ラミナリン、ラミナリオリゴ糖等)およびα-フッ化グルコピラノシド、生成物の分離に用いるサイズ排除クロマトグラフィー用樹脂を購入予定である。また、タンパク質および糖鎖分析に関する実験補助者への謝金およびタンパク配列分析費用、国内学会への参加費用も計上している。得られた成果は国内学会や研究雑誌で発表予定であるため、学会参加費、論文の英文校閲料が必要となる。
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