研究課題/領域番号 |
23780171
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
岩泉 正和 独立行政法人森林総合研究所, 林木育種センター関西育種場, 主任研究員 (50391701)
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キーワード | アカマツ / 遺伝子流動 / 景観 / 雌性配偶体 |
研究概要 |
1.核SSRマーカーに基づくアカマツの地理的遺伝構造(岩泉ら 2012) 地域集団保全のための基礎的な知見を得るため、国内分布域全体にわたる当該樹種の地理的遺伝変異を評価した。62天然集団から計1,883個体を対象に、核SSRマーカー8座を用いてDNA分析を行った。STRUCTURE解析に基づいて集団間の遺伝的組成の違いを複数のクラスター(遺伝的グループ)の構成比により推定した結果、アカマツは西南日本、中部日本、東北日本と、大きく分けて3つの地域でそれぞれ異なるクラスターが優占していることが明らかになった。これらの変異には集団の成立時期等の歴史的背景の違い等が関係している可能性が考えられ、生息域内保存林の配置といった遺伝資源の保存戦略の検討を行う上での基礎データとなることが期待される。 2.アカマツ散布種子の景観スケールにおける遺伝的不均一性(岩泉ら 2013) 阿武隈高地森林生物遺伝資源保存林(福島県いわき市)内のアカマツ9集団において、2010年秋に各3台、計27台の種子トラップにより収集した散布種子(計644種子)の遺伝変異を解析した。胚と雌性配偶体(母親由来の半数体)の組織別に核SSR分析を行い、集団間・集団内トラップ間での雌雄の配偶子の遺伝的不均一性を正確に区別して評価した。その結果、雌性配偶子の集団間・トラップ間の遺伝的分化度はいずれも有意であり、全体的に雄性配偶子のそれよりも高い値を示すとともに、雌性配偶子では200m以内の近距離のトラップ間で有意に遺伝的組成が類似していた。当該樹種の景観スケールでの遺伝的多様性の構築には、花粉による遺伝的交流がもたらす均一な雄性配偶子の遺伝変異に加え、集団間と集団内の両スケールでの雌性配偶子の遺伝的不均一性が寄与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査初年度(2010年)の散布種子組織のDNA抽出・分析をひととおり行い、1ヶ年での種子の遺伝的な傾向を解析して学会発表をすることができた。また、2ヶ年目(2011年)の散布種子組織のDNA抽出・分析に着手し、さらに各集団の成木個体を調査することができたことから、おおむね順調に進展しているところである。 東日本大震災及び福島原発事故による放射能汚染の危険性、および調査集団に通じる林道の崩壊により、2012年度は全集団に種子トラップを設置することができなかった。しかし、設置したトラップで把握した散布種子数はわずか平均7.5粒/m2(2010年度および2011年度はそれぞれ平均286.0粒/m2および168.4粒/m2)であったため、2012年は結実の凶作年であったと思われる。 2013年度は、放射線量に特段の上昇が見られず、さらに林道に更なる崩壊が起こらないのであれば、各集団の成木個体のDNA分析用サンプル採取が可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度もひきつづき、各集団から散布種子を採取するとともに、2011年の散布種子についてDNA抽出・分析を行い、各トラップ(最大27箇所)の雌雄配偶子別の遺伝的多様性(有効な対立遺伝子数やヘテロ接合体率等)及び配偶子グループ間の遺伝構造(グループ間の遺伝的分化度や距離による隔離(isolation by distance)の程度等)の解析を行う。そして、2010年の種子の遺伝的組成の傾向と比較するとともに、年次間での各配偶子グループ間の遺伝的関係等を把握する。 また各集団の成木個体についても、把握した生育個体数に応じて、ランダムサンプリングによりDNA分析を行う。そして、種子の遺伝的多様性やその集団間の異質性の大きさに、集団の成木個体数・個体密度・(平均個体サイズから推察される)齢級およびその遺伝的多様性が及ぼす影響等についても把握していく。 解析には、TwoGener法(Austerlitz and Smouse 2001)等の間接的推定も織り込むことにより、雌雄の両配偶子による、有効な遺伝子流動範囲や繁殖に寄与する雌雄親数等を推定することも考えている。 上記の分析結果を総合的に解析することにより、景観スケールでの集団の遺伝的多様性維持に対する、雌雄配偶子群のそれぞれの寄与を体系的に理解する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同様、DNA分析費(DNA抽出、PCR、シーケンサによる電気泳動、他消耗品、及び実験補助者雇用費など)を主体として使用していく。昨年度は野外調査が一部実施不可だったことや、散布種子数がほとんど得られなかったこと等により余剰金が発生したため、今年度は連年の種子トラップの設置・回収・種子計数・そのDNA分析等の調査に加え、各集団の成木個体のDNA分析試料採取およびその分析へ充てることが可能と考えている。 残金で、成果発表(国内学会参加)旅費や論文投稿のための英文校閲費、調査時の消耗品費などへ充てる予定である。
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