研究課題/領域番号 |
23780176
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
末吉 昌宏 独立行政法人森林総合研究所, 九州支所, 主任研究員 (80435586)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 双翅目 / キノコバエ科 / きのこ / 菌床 / 腐朽木 / 環境 / 菌類 / 多様性 |
研究概要 |
キノコバエ類群集の多様性に影響を及ぼす栽培地域の環境を異なる空間スケールで調査し、有効な防除方法を提唱する。この成果によって、きのこ栽培の被害予想図の作成、菌床しいたけ害虫ナガマドキノコバエの由来の解明、キノコバエ類害虫の一覧と同定ツールの作成が可能になる。大分県日田市に 4 タイプ 20 ヶ所(菌床施設 3, スギ林 6, 広葉樹林 6, ほだ場 5)の調査地を選定し、各調査地に 10m 四方のコドラートを 1 ヶ所設営した。コドラート内の腐朽木量の計測(菌床施設を除く 17 ヶ所)を 10 月に行った。また、コドラート内で捕虫網によるキノコバエ類の採集を 10 月と 11 月にそれぞれ 1 回ずつ行った。さらに、コドラート内のきのこ類子実体を 10 月に、調査地林分内のきのこ類子実体を 11 月に採集した。腐朽木量はほだ場が最も多く、スギ林、広葉樹林が続いた。キノコバエ類 24 属を採集した。各タイプで採集された属数の中央値は、広葉樹が最も大きく、ほだ場、スギ林、菌床施設の順に少なくなった。きのこの出現頻度数の中央値はほだ場 (42)が最も多く 、スギ林 (11.5)、広葉樹 (10.5)、であった。しかし、ほだ場のほだ上に生えたきのこ類を除くと、ほだ場のきのこ出現頻度数の中央値は10 であり、スギ林および広葉樹とほとんど差はなかった。しいたけ・エノキタケ害虫キノコバエ類をほだ場・菌床施設で採集したが、スギ林・広葉樹林では採集しなかった。これらの結果から、広葉樹林はスギ林よりも腐朽木体積が少ないが、きのこの出現頻度はスギ林と同程度であり、広葉樹林のキノコバエ類の多様さはスギ林のそれよりも高い可能性があること、また、害虫キノコバエはほだ場周辺の森林では稀である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原木シイタケ栽培で被害が報告されているキノコバエ類の防除技術開発に向けて、異なる森林タイプ間のキノコバエ類の群集サイズの解明、在不在データの蓄積を行った。H23 年度に計画していた、プロット設営、標本・データ収集、仮同定作業、同定困難な種の抽出を順調に行った。森林プロット・栽培プロットそれぞれ10か所の設営を計画し、森林内プロット12か所および栽培プロット8か所の設営を行った。生息場所のデータとして、腐朽木体積・腐れ具合・樹木の種類と下草・きのこ類の出現頻度を計画し、腐朽木体積・樹木本数・胸高断面積・きのこ本数のデータを収集した。掬い取り、誘引捕殺器、きのこ類からの羽化によるキノコバエ類の採集を計画し、掬い取りと羽化による採集を行った。その結果、キノコバエ類24属を同定した。同定困難な種として、害虫種に酷似した種を数多く認められることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
H24, 25年4-6, 9-11月にH23年度と同じ調査地を用いて、キノコバエ類の採集・きのこ類の採集を行う。これらキノコバエ類・きのこ類・調査地の樹木種の同定を行う。既に取得済みの腐朽木量・樹木の本数・胸高断面積合計のデータと合わせて、多変量解析を行い、キノコバエ類の群集構造に影響している要因の抽出を行う。H24年6-8月にスウェーデン・ルンド大学、デンマーク・コペンハーゲン大学でH23,24年度に得られた標本試料の同定を行う。また、現地周辺の森林で採集を行い、同定を行う。これらの調査で得た同定技術を基に、H24,25年度の調査で得られる試料の同定を行う。H25年に開催される日本森林学会などの大会でH23, 24年度得られたデータを用いて解析した結果を発表する。本研究で得られた成果を基に、枯死木の増加と、それに伴うきのこ類の発生量・林分構造の変化が害虫種の個体群に及ぼす影響を評価し、きのこ栽培のハザードマップを作成する研究へ発展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度の予算要求額は1300千円であったが、直接経費は1000千円であった。これに伴い、現地調査日数計画を60日から42日に変更し、実績は延べ36日であった。これにより100千円の余剰金が生じた。H24年度の直接経費は、H23年度の余剰金を含めて、1600千円である。国内出張(34日)に380千円、補助員雇用に 80千円、海外出張(46日)に1100千円、消耗品購入に40千円を予定している。本研究で採集される標本試料の同定は研究成果の要となる。同定には海外研究機関での標本調査が必須であるため、H23年度の繰越金を投入し、海外出張費用に重点化を図る。
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