研究課題/領域番号 |
23780180
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30447510)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | CCA処理木材 / 無機材料結合性ペプチド |
研究概要 |
平成14年に施行された建設リサイクル法により,建築資材である木材の再資源化が義務付けられた。これにより,ヒ素などの有害化学物質を含むCCA保存剤処理された木材が大量に廃棄されることが問題となっている。この木材の分別・回収を効率的に行う為に,解体現場におけるCCA処理木材の確実な判別方法の開発が期待されている。そこで本研究では,廃材中に存在するCCAに由来する無機化合物粒子を特異的に認識するペプチドを創出することで,無機化合物結合性ペプチドを抗原とした抗原抗体反応によるCCA判別技術を開発可能ではないかと考えた。本年度は,その第一段階として,CCA処理木材中に存在することが予想される無機物粒子に特異的に結合するペプチドを探索することを目的とした。 目的ペプチドのスクリーニング法として,本研究ではペプチド提示ファージシステムを用いた。ペプチド提示ファージシステムとは,様々なアミノ酸配列を持ったペプチドを表面に提示させたファージのライブラリーである。本年度は,CCA処理材中に比較的多く存在すると予想される水酸化クロムを標的無機化合物として選択し,そこに特異的に結合するペプチドの探索を行った。その結果,CCAに結合性を示すファージを3種特定した。これらのファージが提示するペプチドの詳細な結合実験を行うため,シークエンス解析によりそれぞれのペプチドのアミノ酸配列を特定した。その情報を基にペプチドの合成を試みたが,それらのペプチドが極めて低水溶性であったことから,結合実験を行うことができなかった。現在,新たな可溶性のペプチドの探索を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,ペプチド提示ファージシステムを用いて,CCA処理木材由来の無機化合物粒子の表面に結合する機能ペプチドを選抜することを目的として研究を実施してきた。対象とする無機化合物粒子としては,CCA処理木材中に量的に多く含有することが期待されるという理由から,水酸化クロムを用いることとした。この水酸化クロムをターゲットとして結合ペプチドのスクリーニングを試みた結果,これまでに,水酸化クロムに結合性を示すファージに関して,3種類を選抜することに成功した。これらのファージは,繰り返しの結合実験においても水酸化クロムに吸着する画分に検出されたことから,このファージが提示するペプチドは水酸化クロムへの結合能を有することが示唆された。また,これらのファージDNAのシークエンス解析により,それぞれのファージが提示するペプチドのアミノ酸配列が明らかとなった。以上のことから,水酸化クロムへの吸着能を示すと予想されるペプチド配列を特定することが可能となっており,したがって,概ね順調に進展していると判断している。 しかしながら,得られたファージが保持する情報を基にペプチドを合成し,その詳細な結合実験を試みたところ,それらが全て極めて低い水への溶解度を示した。次年度では,機能ペプチドを用いた詳細な結合実験や変異導入による結合に関与するアミノ酸残基の特定などを予定していることを考慮すると,水に可溶なペプチドを如何にして取得するか,ということが現在の大きな課題であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
【現在までの達成度】欄でも記述した通り,次年度は当該年度において選抜された無機化合物結合性ペプチドのターゲット粒子への結合における特異性の調査や,ターゲット粒子への結合能の発現に関わるアミノ酸残基の特定を目指した吸着特性解析を行い,ペプチドが無機材料表面に結合するメカニズムを解明することを目的としている。また,本研究の最終年度には,それまでの研究で高機能化された無機化合物結合性ペプチドを用いて,実際のCCA処理木材に対する吸着特性を調査する研究が予定されている。これらのことを考慮すると,本研究においては無機化合物粒子に結合性を示すペプチドを提示したファージを得ることのみならず,そのペプチド自体を取得することが極めて重要である。それにも関わらず,現時点においては,低水溶性のペプチドのみが選抜されていることから,この点が,今後大きな問題となることが予想される。 これまでの研究により,上記のような問題点が見いだされたことから,次年度では,すでに予定されていた無機化合物結合性ペプチドの特異性の解明や結合に関わるアミノ酸残基の特定を目指した吸着特性解析を行うことに加えて,より高い水への溶解度を呈するペプチドを取得するための実験も追加する必要があると考えている。具体的には,これまでと同様の手法で選抜を継続することと,これまでに得られた結合性ペプチドに変異導入することにより,そのペプチドに対して高い水溶性を付与する試みを考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,前年度の研究で選抜されたペプチドの特異性の解明や結合に関わるアミノ酸残基の特定を目指した吸着特性解析を行い,ペプチドが無機材料表面に結合するメカニズムを解明することを試みる。具体的には,スクリーニングで得られたペプチド提示ファージの情報に基づく変異導入ペプチドの作製や市販の様々な金属粒子に対する結合能を解析することによる,特異性の調査などである。これらの解析に必要な機器類はすでに利用できる状況にあることから,消耗品を主体とした物品費としての利用が中心となる。さらに,上記の研究によって得られた成果を学会などで発表する予定であることから,それにかかる旅費としても研究費を使用する予定である。 また,【今後の研究の推進方策 等】欄中の「今後の研究の推進方策」においても記述した通り,無機化合物粒子に結合性を示すペプチドを提示したファージのみならず,そのペプチド自体を取得することが極めて重要であるにも関わらず,現時点においては,低水溶性のペプチドのみが選抜されていることは大きな問題であると考えており,次年度では,すでに予定されていたペプチドの特異性の解明や結合に関わるアミノ酸残基の特定を目指した吸着特性解析に加えて,より高い溶解度を示すペプチドを取得するための実験も追加する必要があると考えている。これらの追加実験に必要な経費は,【費目別収支状況等】欄の次年度使用額(B-A)に記述された研究費も含めて対応していく予定である。
|