研究課題/領域番号 |
23780184
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久住 亮介 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (70546530)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 環境材料 / バイオマス / 高分子構造・物性 / 磁場 / 配向制御 / 擬単結晶 / NMR / 化学シフトテンソル |
研究概要 |
高度に制御された異方性をもつ高次元配向化セルロース材料の創成と,X線・中性子回折法及び固体NMR分光法を用いた多角的な結晶構造解析手法の確立,並びに機能評価を主目的として,下記の課題を遂行した.課題(A):固体NMR分光法による擬単結晶(低分子微結晶が三次元精密配向した擬似的な単結晶)の構造解析手法の確立課題(B):高度に配向したセルロース擬単結晶の作製と,X線・中性子回折法及び課題(A)で確立した固体NMR構造解析手法による,セルロースの結晶構造に関する基礎的知見の集積その結果,平成23年度末までにおいて下記の成果が得られた.課題(A):L-アラニン微結晶粉末をモデル物質として時間変調型の楕円磁場により擬単結晶を作製し,マジック角回転(MAS)法を使用しない条件下で13C固体NMR測定を行った結果,微結晶の三次元精密配向を反映した高分解能のNMRスペクトルが得られた.さらに,磁場に対する結晶配向の方向を変えるとスペクトルパターンが変化する現象を基に,擬単結晶の化学シフトテンソルの主値と主軸方向を決定することに成功した.課題(B):セルロース擬単結晶の作製とその構造解析の原試料として,ほぼ純粋なIβ結晶からなるホヤセルロースを選択し,ホモジェナイザー処理,次いで酸加水分解に供することにより,セルロースミクロフィブリルへの短繊維化に成功した.また,これら種々の微細化法の条件を適宜変化させることにより,高結晶性且つ10nm~1μm程度の長さのミクロフィブリルを作製することに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書にて記したように,本研究課題は小課題(A)「固体NMR分光法による擬単結晶の構造解析手法の確立」および(B)「セルロース擬単結晶の作製と構造解析・特性評価」で構成されている.まず第一に,課題(A)により固体NMR法による擬単結晶の構造解析手法を確立する必要があるが,時間変調型の楕円磁場による微結晶の三次元配向化を通じて,マジック角回転(MAS)を行わずとも固体NMRスペクトルの大幅な高分解能化が図れることを確認できた.この成果は研究計画の立案時において平成23年度内にて得られると見込まれたものであったが,これに加えて翌24年度以降の目標であった化学シフトテンソルの主値および主軸方向の決定にも成功した.なお,化学シフトテンソルは結晶内における水素結合などの局所構造を解析する上で重要なパラメーターであり,微結晶粉末から非MAS下で主軸方向を含む化学シフトテンソルを決定した例は極めて希少である.一方,課題(B)については,セルロース擬単結晶の作製の際の原試料の選定と,機械的および化学的処理による高結晶性セルロースミクロフィブリルの作製に成功している.この成果は,当初より平成23年度内に達成できると見込まれたものである.以上の状況から,本研究課題は当初の研究実施計画に概ね沿った形で順調に進展していると判断できる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き,当初の研究実施計画に基づいて研究課題を遂行する.具体的には以下の通りである.課題(A):比較的簡単な一次構造を有するL-アラニン(斜方晶)のほか,L-トレオニン(斜方晶)等のより複雑な一次構造をもつアミノ酸,さらにはL-アラニンとは異なる結晶構造を有するセロビオース(単斜晶)等の二糖・単糖類について擬単結晶化を行い,先のL-アラニン擬単結晶と同様の手法にて化学シフトテンソル解析を行い,固体NMR法を用いた擬単結晶の構造解析手法をまとめる.課題(B):親水性・疎水性の樹脂(モノマー)の選択やセルロースミクロフィブリル表面の化学処理などを検討し,ミクロフィブリルを配向固定用の高分子マトリクス中に良好に分散させる手法を確立する.低分子微結晶の場合と異なり,嵩高いセルロースミクロフィブリルを配向させるには強力な磁場が必要なため,東北大学金属材料研究所が所有する15Tの強磁場マグネットの使用も検討する.作製したセルロース擬単結晶のX線回折像より,精密配向の達成を確認する.中性子回折法,及び課題(A)により確立した固体NMRによる擬単結晶の構造解析法を適用して,セルロース擬単結晶の高次構造を多角的に評価する.得られた結果より,セルロース擬単結晶がどのような結晶型をとっているか,出発セルロース試料の結晶型(Iα or Iβ)を考慮しつつ考察する.ミクロフィブリル擬単結晶の光学的性質,力学的性質,及び電気的性質を調査し,先に得られた擬単結晶の構造に関する知見を基に,構造と物性の相関を体系的に総括する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
前述の通り,昨23年度において本研究課題は当初の研究計画にほぼ沿った形で順調に進展した.それに伴い,課題遂行に必要な薬品・ガラス器具などの消耗品費や数式処理システムの時間使用料を最小限に抑えることができた.特に,セルロース擬単結晶の作製の際の原試料として最初に有望と見込んだ試料(マボヤ)で現在のところ順調に進展しており,セルロース原試料選定や必要な薬品類の組合せ等の試行に伴う支出が当初の計画より小額となった.これらの結果,昨年度の経費から次年度使用額が生じているが,今後複数種の原試料や薬品を再検討せざるを得ない状況が発生する可能性は依然として残っている.次年度の研究費の使用計画は以下の通りである.まず,設備備品については昨年度購入したホモジナイザー等の現有物品を最大限に利用し,備品類の新規購入は必要最小限に抑える.物品費はセルロース擬単結晶の作製に必要な薬品・ガラス器具のほか,NMRマグネットの維持に必要な極低温冷媒の購入費用に充てる.その他,化学シフトテンソル解析等に必要な数式処理システムの使用に必要な時間使用料を当該研究費より支払う.なお,数式処理システムを利用した解析実験には,熟練者・経験者の協力が不可欠であり,相応の謝金も必要となる.また,研究成果発表と関連学会での情報交換の目的以外に,東北大学金属材料研究所及び日本原子力研究開発機構東海研究開発センターでの測定解析のための旅費としても使用する.その他,国際誌等を通じた成果発信の際の投稿費・印刷費も捻出する予定である.
|