高度に制御された異方性をもつ高次元配向化セルロース材料の創成と,X線・中性子回折法及び固体NMR分光法を用いた多角的な結晶構造解析手法の確立,並びに機能評価を主目的として,次の課題AおよびBを遂行した. 課題(A):固体NMR分光法による擬単結晶(低分子微結晶が三次元精密配向した擬似的な単結晶)の構造解析手法の確立 課題(B):高度に配向したセルロース擬単結晶の作製と,X線・中性子回折法及び課題(A)で確立した固体NMR構造解析手法による,セルロースの結晶構造に関する基礎的知見の集積 得られた成果は以下の通りである. 課題(A):L-アラニン微結晶粉末をモデル物質として周波数変調型の楕円磁場により擬単結晶を作製し,マジック角回転(MAS)法を使用しない条件下で13C固体NMR測定を行った結果,微結晶の三次元精密配向を反映した高分解能のNMRスペクトルが得られた.さらに,NMR静磁場に対する結晶配向の方向を変えるとスペクトルパターンが変化する現象を基に,擬単結晶の化学シフトテンソルの主値と主軸方向を決定することに成功した.また,同じくアミノ酸であるL-トレオニン微結晶粉末についても,同様の手法により主軸方向を含む化学シフトテンソルの完全決定が可能であることが分かった.この擬単結晶化による化学シフトテンソル決定手法は,31P核においても有効であることも確認された. 課題(B):ホヤセルロースをはじめとしたセルロース原試料の選択,およびホモジェナイザー・酸加水分解による微細化処理の条件の調整を通じて,高結晶性且つ10nm~1μm程度の長さのセルロース微結晶の作り分けに成功した.セルロース微結晶を親水性UV硬化モノマー中へと懸濁させ,8T静磁場下での磁場配向化実験と配向固定化後のX線回折測定へと供した結果,微結晶の一軸配向化を示す回折図を得た.
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