研究課題/領域番号 |
23780185
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿部 賢太郎 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (20402935)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | セルロース / キチン / ナノファイバー / ハイドロゲル |
研究概要 |
本研究は、あらゆる植物細胞壁の基本骨格物質でもある「セルロースナノファイバー」の優れた力学特性を活かして、従来の高分子ゲルとは異なる特異な構造および性質を有する新規材料「高結晶性ナノファイバーゲル」を創製し、その特性解析およびさらなる高強度化・高機能化により、セルロースナノファイバーの新しい分野への応用展開を図ることを目的としている。 樹木から単離した幅15nmのセルロースナノファイバー水懸濁をアルカリ水溶液に浸漬させることにより、結晶性ナノファイバー骨格を有するハイドロゲルが作製されることが明らかになっている。初年度はこの高結晶性ナノファイバーゲルの特性解析、とくにその力学特性を中心に明らかにすることを目標とした。 湿潤ナノファイバーシートを9w%または15wt%のNaOH水溶液に50℃で浸漬することで、2種類のナノファイバーゲルを作製した。X線回折測定の結果、作製したゲルはそれぞれセルロースI型およびII型の結晶構造を有し、両者のセルロース結晶性は極めて高い値を示した。2種類のナノファイバーゲルの引張特性はいずれも一般的な高分子ゲルに比べて遥かに高く、またII型ゲルはI型ゲルより高い引張特性を示した。15wt%NaOHで処理した際、ナノファイバー結晶全体が膨潤し近傍のナノファイバー同士で癒合することにより強固な連続ネットワークが形成されるため引張特性が向上すると考えられる。ナノファイバーの結晶膨潤を利用して作製するゲルは従来のゲル構造とは全く異なるものであり、今後天然由来の高強度ゲルとしての利用が多いに期待できる。またセルロースと同様、自然界に豊富に存在する結晶性ナノファイバーであるキチンを用いてアルカリ処理によるゲル化現象を確認し、その作製法を詳細に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高弾性・高強度を示すセルロースナノファイバーを骨格とするハイドロゲルにおいて、その力学特性は非常に興味深い。初年度の成果において、I型およびII型の結晶形を有する結晶性ナノファイバーゲルの引張特性が一般のセルロース系ゲルと比べて非常に高い値を示すことが明らかになった。これにより結晶性ナノファイバーからなる新規ゲルの特異性が示され、初年度の達成度は非常に高い。とくに、セルロースI型からII型への結晶変態を利用したナノファイバー間の癒合がゲル内に強固な連続ネットワークを形成させ、その力学特性を飛躍的に向上することが明らかになったことは有意な成果であった。 しかしながら、本来初年度後半から取り組む予定であったナノファイバーのさらなる高強度化・高機能化については十分に行うことができなかった。それは上記の実績概要に示したように、キチンナノファイバーのゲル化現象を明らかにすることを優先したためである。天然に存在する直鎖状の結晶性高分子がセルロースとキチンのみであるため、これら2種類の天然ナノファイバーから同様に結晶性ゲルを作製することが可能になったことは天然由来の高強度ゲルの利用展開を促進する上で有意義な結果であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ナノファイバーのさらなる高強度化・高機能化を中心に研究を進める。初年度において不十分であった課題であるが、その代わりにキリンナノファイバーゲルの作製に成功している。そのため、セルロースおよびキチンナノファイバーゲルにおいて高強度化・高機能化に取り組む。しかし、キチンナノファイバーゲルにおいては力学特性の解析が十分でないため、まずはセルロースゲルと同様に引張性能を明らかにする。 そのうえで、セルロースナノファイバーゲルの圧縮強度を向上させるため、ナノファイバー骨格中に別の高分子を組み合わせゲル化させることによりダブルネットワークゲルを調製し、本ゲルの高強度化や新たな機能付与を図る。用いるペア高分子として、天然資源であるセルロースおよびキチンの優位性を活かすために、ヘミセルロースやアルギン酸ナトリウム等の植物性多糖類、海洋性多糖類のキトサンおよびゼラチン等の親水性天然高分子を中心とする。例えばヘミセルロースの一種であるグルコマンナン(コンニャクの主成分)は本ナノファイバーゲルと同様にアルカリ処理によりゲル化するため容易に複合化できる。また、キチンナノファイバーゲルとキトサンとの複合化により生態適合性を持つ高強度ゲルの作製が期待される。以上、様々な複合ゲルについて調製法の検討や力学性能評価に加え、力学試験の結果や直接観察による構造解析を行うことにより、その性質を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
セルロースおよびキチンのナノファイバー水懸濁液は非常に粘性が高く、解繊および撹拌時等に液中に気泡が多量に発生し、作製したゲルの力学特性解析の障害となる。初年度においては引張試験用に吸引濾過により湿潤シートを作製しため、気泡の影響が少なかった。しかし、次年度の圧縮強度試験用のゲルを作製するためには気泡の除去は不可欠である。そのため、強力な撹拌と同時に自転・公転式の脱泡を行う遠心脱泡装置を購入予定である。 消耗品として、グラインダー砥石(使用時に徐々に摩耗するため時折交換する必要がある)やメンブレンフィルター(ナノファイバー水懸濁液の脱水用)、またキトサン等のペア高分子の購入を予定している。
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