研究課題/領域番号 |
23780190
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
矢崎 健一 独立行政法人森林総合研究所, 植物生態研究領域, 主任研究員 (30353890)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 松枯れ / キャビテーション / 気孔反応 / 木部柔細胞 / 低温走査型電子顕微鏡 |
研究概要 |
マツ枯れ発症木においては,急激に木部内の水分が消失し,潅水をしてもしおれから回復しない。通常、健常木では急激な木部内水分の消失に対して気孔が閉鎖する。また、潅水することで機能を失った通水系が回復する場合がある。潅水しても枯死にいたるマツ枯れ発症木では、これら一連(あるいは一部)の木部内水分保持機構が働いていないことが予想される。しかしながら、マツ枯れ発症木において、気孔や木部柔細胞がどのような状態であるのか、明らかになっていない。そこで本課題では,気孔および木部内水分挙動を経時的に解析することで、マツ枯れ特有の急速な木部内水分消失のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 H23年度は、木部内水分挙動と木部柔細胞の状態を同所的に観察する手法の開発を試みた。また、木部内の樹液の移動速度(通水コンダクタンス)の変化に応じて気孔が反応することから、また、任意の負圧に対する木部の通水コンダクタンスの変化を測定できる機器を開発を行なった。立木凍結法により採取した木部試料に対して、低温スライディングミクロトームによる試料の表面切削時に粘着フィルム(クライオフィルム、ライカマイクロシステムズ(株)製)を用いることで、良好な切片を得ることが出来た。同じ試料のcryo-SEMによる観察像と、DAPI染色したフィルム切片の蛍光顕微鏡観察像を重ね合わせることで、ほぼ同所的に水分状態と生細胞の状態を観察することが可能となった。遠心分離機を利用して小枝内の通水系に任意の張力をかける(遠心法)ためのシステムを久保田商事(株)と開発した。予備実験の結果、木部通水系の乾燥によるエンボリズム発生に対する脆弱性を評価するための十分な張力をこの装置によってかけられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、木部内水分状態と生細胞状態の同所的な観察手法を開発した。この手法を次年度以降の実験に適応することで、木部内生細胞の役割を解明する大きな手がかりになると考える。同様に当該年度に開発した遠心法は、メーカーおよび他研究者と十分な検討を重ねたため、完成がやや遅れたが、使用に十分耐える性能を備えたものになった。この装置で今後の実験を順調に進めることが出来るため、研究進行に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
H24は、クロマツ生来の水分挙動を明らかにするため、人工的に乾燥ー潅水処理したクロマツ苗木の気孔反応、水分特性を評価する。同様に乾燥ー潅水処理に対する木部水分挙動と通水性変化および生細胞の状態を、初年度に確立した手法により評価する。H25以降、強病原性のマツノザイセンチュウをクロマツ苗木に接種し、同様の実験を行うことで、松枯れによる急速な木部内の水分消失メカニズムを解明する。乾燥処理区と接種区との一連の結果を比較することで、マツをモデルとした針葉樹木部通水系の水分消失に対する防御メカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
苗木の育成、ガス交換、水分特性測定、顕微鏡観察に必要な消耗品に使用する。また、研究を進める上で補助員の雇用が必要であるため、雇用費を計上する。
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