研究課題/領域番号 |
23780190
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
矢崎 健一 独立行政法人森林総合研究所, 植物生態研究領域, 主任研究員 (30353890)
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キーワード | 松枯れ / cryo-SEM / 木部柔細胞 / vulnerability curve / A/Ci曲線 |
研究概要 |
マツ枯れ罹病木の病徴との比較のため、クロマツ2年生苗木の乾燥耐性および回復特性を評価した。水ストレスの強度の指標として、健全な樹幹が通水機能の半分を失う水ポテンシャル(P50)を求めた。供試木への潅水を停止し、水ポテンシャル、透水係数(Ks)および各光合成特性の経時変化を一年葉で調べた。P50付近まで水ポテンシャルが低下した後に潅水し、その前後の水分生理および光合成特性を測定することで、回復特性を評価した。 潅水停止後、日数とともに気孔が閉鎖し、日中水ポテンシャルはほぼ直線的に低下していった。一方、Ksは漸減であった。これは昨年度報告したマツ枯れ罹病木の反応とは対照的(水ポテンシャルは漸減後に急落、Ksは接種後、早期に低下)であった。光合成速度は水ポテンシャルの低下に伴い低下したが、CO2固定速度(Vcmax25)は水ポテンシャルの変化と追随していなかった。従って光合成の低下は気孔閉鎖によって葉内のCO2濃度が減少したことによるものといえる。本試験のクロマツ木部のP50は-2.8MPaであり、その付近から潅水した所、水ポテンシャル、光合成、Ksとも、潅水停止前の値まで回復した。従ってクロマツの場合、P50付近の乾燥からも生理活性を回復可能であることが示唆された。 低温走査型電子顕微鏡(cryo-SEM)および蛍光顕微鏡を用い、松枯れの進行過程における木部内水分挙動と放射柔細胞およびエピセリウム細胞を同所的に観察した。その結果、樹脂道のチロソイドがある部位から松枯れ進行に伴う水の消失が顕著に認められた。一方、水の消失と放射柔細胞の核の状態とに明瞭な関係は見られなかった。 本年度と昨年度の結果から、マツ枯れ罹病木の症状は、水切れによる乾燥障害のみでなく、クロマツが本来持ちうる回復特性へ何らかの影響を与えている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
松枯れ罹病したクロマツ苗木の、木部内水分挙動と生細胞の活性との対応の観察はおおむね完了した。また、乾燥ストレス状態におけるクロマツの気孔、光合成および通水コンダクタンスの測定、クロロフィル蛍光反応による測定は予定通り完了した。葉に大きな負圧が存在している時に枝を採取することは、通水特性にアーティファクトを与える、との指摘があり(Wheeler et al. 2013 Plant Cell Environ)、クロマツにおける手法の妥当性を優先して評価する必要があった。本研究において手法の妥当性は認められた。予定していた乾燥過程における木部構造の解析は不十分であったが、試料は保存されており、次年度に組織構造の解析を集中して行う予定である。抵抗性マツを用いた試験は中止するが、非抵抗性マツにおいて、乾燥および接種木とで得られたデータを比較することで、本研究の当初の目的は達成できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度採取した乾燥ストレスを受けた供試木において、水分挙動と生細胞の状態を同所的に観察し、マツ枯れ罹病木のものと比較する。また、マツ枯れ・乾燥木で、木部内水分挙動と壁孔の状態との関連性を評価し、マツ枯れにおいて通水性が回復しないメカニズムを検証する。これまでのデータを統括する。
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次年度の研究費の使用計画 |
解析の結果、目的達成のために、細胞学的な解析をより詳細に行う必要があると判断した。また、手法そのものに対する検討を行う必要が生じた。手法についての正当性は確認できたものの、これに際して研究スケジュールを変更せざるをえなくなったため。 主に顕微鏡観察に必要な消耗品や試薬、投稿論文作成時の謝礼などに当てる予定である。また、場合によって、種々の解析の技能を有する研究補助員を雇用する。
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