マツ枯れの枯死メカニズム解明のため、マツ枯れ病罹病木の葉の生理特性、水分通道機能、木部内水分挙動、生細胞の状態を経時的に解析した。乾燥ストレス下の個体とそれぞれの特性を比較し、マツ枯れ特有の通水阻害発生および枯死メカニズムを明らかにすることを目的とした。 木部通水機能の脆弱性の評価および木部内水分状態と生細胞の状態とを同所的に観察するための手法を検討・開発した。2年生クロマツ苗木に、線虫接種処理(PWN)および潅水を控えた処理(D)を行い各特性を調べた。その結果、PWN処理においては、接種後数日で気孔が閉鎖し木部の通水阻害が発生した。その後、葉の水ポテンシャルが低下し、葉が黄変した。一方で、D処理においては水ポテンシャルが直線的に低下したものの、通水阻害の発生は顕著でなかった。 木部内水分挙動および柔細胞の観察をPWN処理で行った結果、病状の進行に伴い、樹脂道周辺の仮道管内の水分が消失し、その後周辺の細胞で水分消失が拡大していった。水分消失に前後し、樹脂道内にエピセリウム細胞の肥大化(チロソイド)が観察された。仮道管内の水分の消失部位とその周辺の柔細胞の核の有無については、明確な対応はみられなかった。一方で、D処理においては、木部の半分の通水機能が失われるはずの乾燥下でも、仮道管内こうに多く水が存在した。D処理では有縁壁孔の閉塞が観測されたことから、壁孔閉塞で通水機能が失われたと考えられた。潅水時には、木部内にまだ水が残っているため、通水性を回復させることが可能であると考えられた。 以上の結果より、本来クロマツの木部仮道管は強度の乾燥下において、水を保持するメカニズムが存在するといえる。松枯れ罹病木においては、通常と異なり、チロソイド発生を伴う樹脂道近辺における水分消失が発端で、潅水しても通水性の低下を解消することができず、枯死に至るといえる。
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