内湾で漁業を営む漁船の多くは5トン未満で,これらの漁船に搭載される装備は限られている。主な装備は,水深や魚群の有無を知るための魚群探知機と自船の位置を知るためのGPSなどであり,漁場の環境を知るためのモニタリング装置を装備した船はほどんとない。こうした中で漁業者は,漁獲される様々な生物から水温の変化や海底の変化などを経験的に推測している。一方で資源の減少が言われる中,経験に頼った方法だけでは効率的な操業が行えないだけでなく,漁業者の減少が言われる中で新規参入者の妨げにもなっている。 そこで東京湾のあなご筒漁をモデルケースとして,混獲される生物から漁場環境を推定する手法の開発を試みた。本研究では,混獲される生物と底質,水温などの関係から,生物指標となる生物を選定した。そして漁場にてそれら生物の出現と環境の関係をモニタリングした。 混獲個体数が多かった7種(マルバガニ,フタホシイシガニ,ケブカエンコウガニ,ハナムシロ,ヌタウナギ,ウミフクロウ,ヨコエビ)を指標生物として水温と混獲の関係を明らかにした。特にこれらのうち2種類(マルバガニ,フタホシイシガニ)について,飼育実験によって,水温の変化が実際に生物の行動にどう影響を与えているのか,観察を行った。 ケブカエンコウガニは21℃以下,ヌタウナギは11℃以上18℃以下,ヨコエビは11℃以上22℃以下の生物指標となる可能性が示された。フタホシイシガニとマルバガニについて,調査から,17℃以上で生物指標となる可能性が示された。さらに,飼育実験から,17℃以下において混獲されなくなる原因は,動作が緩慢になったことより,摂餌に対する積極性が失われたためと考えられた。 また、ハナムシロとウミフクロウは広範囲の水温で混獲されていたが、ハナムシロは,13℃以下において,ウミフクロウでは,16℃以下において,混獲される量が増加する傾向が見られた。
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