リンホシスチス病の特徴は,リンホシスチス細胞(LCC)と呼ばれる巨大細胞が罹患魚の体表に現れることであるが,細胞の肥大化メカニズムは明らかにされていない.昨年度の実験によって,LCC形成時期に発現するリンホシスチスウイルス(LCDV)の遺伝子が明らかにされた.本年度は培養細胞を用いたトランスフェクション法で,肥大化メカニズムに関わるウイルス遺伝子を特定することを目的とした.実験に先立ち,トランスフェクション法の最適条件を検討した.その結果,CHSE-214 細胞において,FuGENE6試薬を用いて,DNAの電荷比が6:1の条件下で,DNA濃度を0.3 μg/mLとした場合に最大(31.5%)の導入効率が得られた.次に,LCC形成時期に発現量が高かった5 つ(053L,007L,019R,081R,および 163L)のORF領域をクローニングし,同細胞に導入し,形態学的変化を調べた.透過型電子顕微鏡で供試細胞を観察しところ,007L 以外の 4 つの ORF領域を導入した細胞では,発現に伴う細胞の形態学的変化は認められなかった.一方,007Lを発現させた細胞では発達したゴルジ体が観察された.ゴルジ体の存在量は細胞の需要に応じて厳密に調節されており,細胞内で糖タンパク質,脂質および多糖類の合成が活発に行われるとゴルジ体が発達する.本研究で着目した LCCはヒアリンカプセルという分厚い膜で覆われており,本膜の主成分は糖タンパク質, 脂質および多糖類であると報告されている.したがって,ゴルジ体の発達はヒアリンカプセルの形成に関与している可能性が高い.組織学的研究により,ヒアリンカプセルが形成される時期に細胞内小器官が発達することが報告されていることからも,007Lがヒアリンカプセルの形成に関与している可能性がある.
|