研究課題/領域番号 |
23780196
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山口 晴生 高知大学, 自然科学系, 准教授 (10432816)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 赤潮 / 植物プランクトン / 有機態リン / リン酸ジエステル / 分解経路 |
研究概要 |
本研究では、赤潮の発生機構を解明するため、その原因生物による新奇なリン源獲得経路を明らかにすることを目的とする。具体的には、海洋に広く豊富に溶存することが近年明らかになりながらも、原因生物のリン源としては検討されていない有機リン化合物「リン酸ジエステル」に着目し、それを原因生物が分解・利用できるのかを厳密な培養実験によって明らかにする。本年度は、まず沿岸海水より植物プランクトンを単離し、それらの中で「リン酸ジエステル」分解活性を有する種を網羅探索した。培養試験に供した多くのプランクトンの中で、ノリの色落ちを引き起こす赤潮原因珪藻Rhizosolenia setigera等から「リン酸ジエステル」の分解活性を検出することに成功した。この活性は、環境水中の無機態リンが不足した条件下で顕著に増大し、かつプランクトン種間で大きく異なることがわかった。これらのことより、いくつかの赤潮原因プランクトンは、無機態リンが枯渇しやすい海洋環境下にて、有機リン化合物「リン酸ジエステル」を分解できることがわかった。また、当該活性を有する種は、他の種よりも「リン酸ジエステル」からリン源を速やかに獲得できる可能性があり、リンを巡る競合において有利かもしれない。以上、本年度に得られた研究結果から、海洋植物プランクトンのリン源として、これまで全く考慮されてこなかった有機リン化合物「リン酸ジエステル」が、植物プランクトンの大増殖・赤潮という現象に深く関わる可能性を、世界に先駆けて明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「リン酸ジエステル」を利用可能な赤潮原因プランクトンを探索し、その利用能を明らかにすることを目的にしている。この目的の達成に向けて、1) リン酸ジエステル分解能を有する赤潮原因プランクトンの網羅探索、2)当該プランクトンのリン酸ジエステル分解活性に及ぼす環境因子・生理状態の影響評価、3)リン酸ジエステル利用能の解明、以上3つの小課題に取り組む。これまでに、無機態リン枯渇時にリン酸ジエステル分解活性を誘導する赤潮原因プランクトンを見出すことに成功しており、当初の計画通り小課題1と2を当該年度に達成することができた。得られた成果の一部は、すでに学会等で報告していることから、研究の目的は概ね順調に達成されていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、「リン酸ジエステル」を利用可能な赤潮原因プランクトンを探索し、その利用能を明らかにすることを目的にしている。この目的の達成に向けて、「リン酸ジエステル」を利用可能と思われる赤潮原因プランクトンを分離することに成功し、その無菌株を確立することができた。今後は、当該プランクトンの「リン酸ジエステル」利用能を評価する予定である。具体的には、赤潮原因プランクトンの細胞収量・増殖速度が、「リン酸ジエステル」の化合物の種類・濃度あるいはプランクトン種によって有意に変動するのかを統計学的解析により定量評価する。収集された実験データをもとに、リン源として「リン酸ジエステル」を新たに位置づけた、赤潮原因種による新奇なリン源獲得経路が存在する可能性を明確化するとともに、その経路を組み入れた新たな赤潮発生機構を構築・提示する。一連の研究結果はテーマごとに論文としてまとめ、国際科学雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の計画に基づく経費執行について、4月に支払すべき経費が残っているため、次年度使用額が存在するように見えるが、実際には、全額を執行予定である。そのため、次年度の研究は、当初の計画通り進める予定である。
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