研究課題/領域番号 |
23780201
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
高尾 祥丈 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 助教 (00511304)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ラビリンチュラ類 / 日本海 / 対馬暖流 / 分解者 |
研究概要 |
日本海は植物プランクトンによる基礎生物生産が低い海域であるが、水産資源の豊かな海域として知られている。このことは、光合成を起点とする生物生産の他に、有機物の分解を起点とする生物生産が発達している可能性を示唆している。そこで、本研究では日本海における有機物分解者ラビリンチュラ類の分布・多様性を解明する事を目的とした。本年度は時間軸を固定した調査(北海道大学練習船おしょろ丸を用いた対馬暖流域の研究航海)を実施した。 物理環境データの解析から、調査海域は、対馬暖流由来の高温高塩分水が未到達の秋田沖、沖合に冷水渦が存在し、沿岸域に暖水塊が存在する若狭沖、低塩分水が表層を覆っている対馬海峡と、海域毎に物理環境が大きく異なる状況であった。 ラビリンチュラ類は秋田沖から対馬海峡に至る全測点で検出され、その現存量は平均1.32×102 cells/Lであった。これまでに申請者が実施してきた福井県小浜湾における調査結果を僅かに下回る程度であり、日本海の内湾性海域から沖合にかけて相当量のラビリンチュラ類が生息している事が明らかとなった。 また、本生物群の分布傾向は全域的には表層に多くする傾向にあったが、海域毎に違いが見られた。また、浮遊性細菌の分布パターンとも異なる事が明らかとなった。このことから、ラビリンチュラ類が果たす分解者としての役割は、細菌類とは異なっている可能性が示された。 一方、本調査航海では、ラビリンチュラ類の分離・培養試験も当初計画に加えて実施した。その結果、31株のラビリンチュラ類の分離に成功し、18SrRNA遺伝子配列による同定を行ったところ、海域毎に異なるラビリンチュラ類が分布していることが明らかとなった。また、島根沖・若狭沖から分離された株は、小浜湾で春季に出現するラビリンチュラ類の一部と一致しており、対馬暖流による水塊の移動と本生物群の動態との関係性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、調査航海における資料採集、データ収集が最も大きな課題であったが、シップタイムの都合上変更を余儀なくされた点が若干あったものの、大きな計画の変更を強いられることなく順調に実施することが出来た。また、下船後、得られたサンプルおよびデータの解析も順調に進んでおり、6月の航海で得られたデータの一部を用いて既に学会発表を行っている。 一方、得られたデータは新規性が高く、これまでに申請者が実施してきた研究から得られている知見と合わせて考察する事で、本研究の目的である日本海におけるラビリンチュラ類の分布と多様性の解明に向けて大きく前進することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
時間軸固定調査の考察・観測地点を固定した調査の実施 前年度に引き続きサンプルの処理を継続する(現場海域に生息するラビリンチュラ類の多様性解析)、物理データと生物データを組み合わせた解析を進め、水塊分布と微生物の現存量・多様性との関連性について検討する。ここで得られた成果をいったん集約し成果発表を行う。 一方、平成24年5月から翌年9月にかけて若狭湾に設けた調査定点における観測を実施する。具体的には若狭湾定点において5月から4ヶ月間は毎月1回程度,その他の期間は隔月でサンプリングを行い、物理・化学データ,懸濁態/溶存態有機物量,細菌現存量,ラビリンチュラ現存量およびラビリンチュラ類の多様性解析を行う。調査方法は初年度の研究計画と同様に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で使用する、試料採集機器、観測機器、サーマルサイクラー、ディープフリーザーなどは、研究室に現有するもしくは部局共通機器を使用するので、研究費は主にサンプル処理および遺伝子解析用試薬等の消耗品および外注費、成果発表に要する旅費,校閲掲載料を準備することで本研究を行うことが可能である。また、分子生物学的手法に用いる試薬はコストが高いものが多いため重点的に配分する。尚、本年度試薬購入等で発生した、残金6,423円は次年度購入予定の分子生物学用試薬代に充当する予定である。
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