研究課題/領域番号 |
23780201
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
高尾 祥丈 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 講師 (00511304)
|
キーワード | ラビリンチュラ類 / 日本海 / 若狭湾 / 対馬暖流 / 分解者 |
研究概要 |
日本海は植物プランクトンによる基礎生物生産が低い海域であるが、水産資源の豊かな海域として知られている。このことは、光合成を起点とする生物生産のほかに、陸源有機物の分解を起点とする生物生産が発達している可能性を示唆している。しかし、日本海における低次生態系に関する知見は驚くほど少ない。そこで本研究では、日本海における対馬暖流の流下による水塊構造の変化と、有機物およびその分解者であるラビリンチュラ類の分布・多様性との関係を明らかにすることを目的としている。本年度は、観測地点を固定した調査(若狭湾定点観測)および前年度に得た多様性解析試料からラビリンチュラ類の各水塊における多様性の解明を試みた。 観測地点を固定した調査では、まず、4月に対馬暖流由来の暖水が若狭湾に到達し、若狭湾定点、小浜湾(若狭湾沿岸域に位置する内湾)ともに5月の調査からラビリンチュラ類が検出され始めた。これは前年度に得られた知見を強く支持する結果であった。その後小浜湾では、夏季にかけて徐々に現存量が増加し冬期11月以降検出限界以下となった。これらの調査で得た分離株については現在遺伝子配列による多様性を解析中である。一方、若狭湾定点では現存量の変動が大きく検出限界以下となる事が頻繁にあった。物理環境データの解析から若狭湾定点は地形の特性上、当初の予想より降雨などの影響を直接的に受けており、対馬暖流の影響を推定するのに不適な環境であることが明らかとなった。現在、若狭湾定点を新たに設定し直し、調査を開始している。 前年度に得た試料の多様性解析では、真核生物共通プライマーを用いる予定であったが、実際の試料処理では問題が多いため、ラビリンチュラ類に特異的な複数のプライマーセットを新たに開発することとし、成功した。今後、これらの試料の解析を進めていく予定である。 また、これまでに得られた知見を集約し学会発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は観測点を固定した調査と前年度に得た試料の解析を引き続き行った。若狭湾定点で予想以上に降雨の影響が強く、春季以降の対馬暖流の影響が不明瞭となったが、春季には対馬暖流由来の暖水塊の到達とラビリンチュラ類の出現を確認し、前年度に得た知見を強く支持するデータを得ることができた。また、多様性解析においてはラビリンチュラ類を検出する為の複数のプライマーセットを確立することにも成功した。今年度得られたデータを基に、最終年度の調査を実施することによって、日本海における水塊構造の変化とラビリンチュラ類の分布と多様性についての知見をより深めることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度得られたデータから若狭湾定点の再設定を行い、平成25年5月から翌年4月にかけて若狭湾に設けた調査定点における観測を実施する。具体的には若狭湾定点において5月から毎月1回程度サンプリングを行い、物理・化学データ,懸濁態/溶存態有機物量,細菌現存量,ラビリンチュラ現存量およびラビリンチュラ類の多様性解析を行う。調査方法は前年度の研究計画と同様に行う。また、今年度までに得られた成果を集約し成果発表を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究で使用する、試料採集機器、観測機器、サーマルサイクラー、ディープフリーザーなどは、研究室に現有するもしくは部局共通機器を使用するので、研究費は主にサンプル処理および遺伝子解析用試薬等の消耗品および外注費、成果発表に要する旅費,校閲掲載 料を準備することで本研究を行うことが可能である。また、分子生物学的手法に用いる試薬はコストが高いものが多いため重点的に配分する。なお、本年度試薬購入等で発生した残金は、次年度購入予定の分子生物学用試薬代,定点再設定による傭船代等に充当する予定である。
|