研究概要 |
日本海は植物プランクトンによる基礎生産の低い海域であるが、水産資源の豊かな海域として知られている。このことは光合成を起点とする生物生産のほかに、陸源有機物などの分解を起点とする生物生産が発達している可能性を示唆している。しかし、日本海における低次生態系に関する知見は驚くほど少ない。そこで、本研究では、日本海における対馬暖流の流下による水塊構造の変化と、有機物分解者であるラビリンチュラ類の分布および多様性との関係を明らかにする事を目的とした。 平成23年度は時間軸を固定した調査(北海道大学練習船おしょろ丸第229次航海)によって日本海の水塊構造とラビリンチュラ類の分布パターンは対馬暖流の流下状況と共に、海域毎に大きく異なることを明らかにした。また、小浜湾で春季に出現するラビリンチュラ類の一部と同時期に流下する対馬暖流由来の暖水塊中に存在するものが一致する事も明らかにした。平成24年度および25年度の観測点を若狭湾定点(24年度), 小浜湾定点(24年度, 25年度)固定した調査により、対馬暖流由来暖水塊の若狭湾への到達と同時期にラビリンチュラ類が出現することを明らかにした。しかし、夏季の対馬暖流の特徴である、長江由来の低塩分水を含む水塊の移動については捉えることが出来なかった。一方、分離株の性状解析(増殖特性)を行ったところ、対馬暖流由来の暖水塊および小浜湾の春季に出現する系統群は高温・高塩分を至適としており、高水温域から移入してきた可能性が示唆される結果となった。 以上の結果から、日本海の水塊構造は、対馬暖流の流下に伴い大きく変化すること、沿岸域の有機物分解者にも影響を与えていることが明らかとなった。また、春季の対馬暖流由来の高温・高塩分水塊に含まれる懸濁態有機物量は少なく、陸源有機物の輸送よりも生物種の供給源として機能していると考えられた。
|