研究課題/領域番号 |
23780202
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
野中 里佐 獨協医科大学, 医学部, 助教 (70363265)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 多剤耐性菌 / プラスミド / 遺伝子伝達 / 養殖環境 / トランスポゾン |
研究概要 |
本研究の目的は伝達性プラスミドの簡易スクリーニング法を確立し、養殖環境細菌、魚類病原細菌および臨床分離株を対象としてその有効性を確認すること、また養殖環境分離株由来のプラスミドの配列比較により環境中で多剤耐性プラスミドが作られるメカニズムを明らかにすることである。平成23年度は伝達性プラスミドのスクリーニング方法を確立した。具体的にはプラスミド伝達の際に必須なリラクゼースをターゲットに、伝達性プラスミドpAQU1およびその近縁プラスミドを同時検出するプライマーを設計した。本プライマーを用いて養殖環境細菌114株、魚類病原細菌Photobacterium damselae subsp. damselae 20株、臨床分離株8株を対象にPCRを行った結果、養殖環境分離株および魚類病原菌株それぞれ7株および10株からリラクゼース遺伝子が検出された。さらにこれら養殖環境株7株中6株および魚類病原菌株10株すべてが実際に伝達性プラスミドを保有していることが遺伝子伝達実験により確認できた。なお、養殖環境株6株のうち1株では伝達されたプラスミドが受容菌のゲノムにインテグレートしていることが示唆された。以上の結果からリラクゼースの検出は伝達性プラスミドのみならず、その他リラクゼースを利用する遺伝子伝達機構を持つ細菌のスクリーニングに利用可能と考えられた。上述した養殖環境由来の5株が保有する伝達性プラスミドおよび同環境由来多剤耐性菌が保有するプラスミドpAQU1では接合伝達に関与する遺伝子群を含む保存領域があることが明らかになった。またこのうち二つのプラスミド(pAQU1, pAQU2)の全塩基配列比較を行った結果、薬剤耐性遺伝子はトランスポゾン遺伝子に挟まれた形で保存領域に入り込んでおり、養殖環境中での多剤耐性プラスミドの形成にはトランスポゾンが重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成23年の実施計画に基づきおおむね順調に進展している。平成23年度は養殖環境由来菌株および魚類病原菌株を対象にリラクゼース遺伝子のPCR検出およびプラスミド伝達実験を行い、リラクゼース遺伝子の検出が伝達性プラスミドのスクリーニング方法として利用可能なことを示した。また養殖場底泥由来の薬剤耐性菌のプラスミドpAQU2の全塩基配列を決定したが、実施計画に含まれていたDDBJへの登録は未完了である。この理由は研究代表者が平成23年12月より出産に伴う休暇に入ったため研究期間が短くなったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は決定済みのプラスミドpAQU2の塩基配列をサンガー法により精査し、DDBJへの登録を完了させる。その後、平成24年度の実施計画に基づき、既知の伝達性プラスミドと共通する遺伝子を抽出後比較解析を行い、pAQUタイプと近縁の伝達性プラスミドの分子系統学的な関係を明らかにする。さらに、大腸菌をレシピエントとして養殖環境由来株および魚類病原菌株が保有するプラスミドの伝達頻度を算出する。また養殖環境細菌に分布するプラスミドであるpAQUタイププラスミドの複製開始点(Rep)が機能していることを実験的に確認し、pAQUタイププラスミドの特徴を明らかにする。計画当初予定していた臨床分離株については平成23年度に用いた株からリラクゼースが検出されず、新たな臨床分離株については今後の入手の見通しがたっていない。したがって今後は臨床分離株を対象から外し、養殖環境分離株および魚類病原菌株のみを対象として研究をすすめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を行うための機器は既に初年度に購入済みであるため、次年度の研究費は上述した実験を行うための消耗品を主に購入するために用いる。具体的にはプラスミドpAQU2塩基配列精査のために必要な試薬、および遺伝子伝達頻度算出のために必要な細菌用培地類、抗菌薬および一般試薬等の購入を行う予定である。
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