環境中のバクテリアの多くは難培養性であると考えられているが、特に海洋生物に共生するバクテリアは培養が困難である。海綿動物の生体内には数多くのバクテリアが共生しているが、実際に、カイメン由来の天然物を生産するバクテリアの培養成功例はほとんどない。これは、生体内の微生物が、同種および異種間で様々なシグナル物質を放出、受容しており、この共生関係を実験室では完全に再現できないことに起因していると考えられる。本研究ではそれら共生関係の一端を解明すべく、微生物間の生育誘引物質の探索を目的とした。 1.共生バクテリア間の生育促進物質に関する研究 2011年度の研究成果によって得られた、クロイソカイメン中の生育を促進する共生バクテリアのペアを用い、シグナルを放出していると考えられる株の培養液から、LC-MSを用いたメタボロミクス、および活性試験を指標に、各種クロマトグラフィーを用いて活性物質の単離を試みている。 2.海洋放線菌からの環状ペプチドの構造と機能に関する研究 関連研究で得られた環状ペプチドの化学構造の決定の過程で、この化合物が複数の株によって生産されていることを見出し、さらなる予備実験から、ある種の放線菌の生育に影響を与えている可能性が示された。そこでまず、NMRやMSなどの各種機器分析の解析および化学分解を組み合わせることで化学構造を決定した。現在、この環状ペプチドが持つ機能の詳細を検討している。
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