研究課題/領域番号 |
23780211
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
近藤 秀裕 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (20314635)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | サイトカイン / アジュバント / ヒラメ / 抗体価 |
研究概要 |
魚類において、種々のサイトカインが獲得免疫の成立にどのような働きをもつかを調べるため、平成23年度は、ヒラメを対象にインターロイキン1β(IL-1β)の働きを解析した。ヒラメIL-1β遺伝子を組み込んだ真核生物発現用プラスミド(pIL-1β)を抗原タンパク質(ウシ血清アルブミン:BSA)とともにヒラメ筋肉中に投与した。pIL-1β投与により、筋肉中のみならず腎臓においてもIL-1β遺伝子発現量が上昇したことから、pIL-1βから転写・翻訳されたIL-1βタンパク質が全身的に働いたことが示唆された。本試験魚を30日間飼育し、血清中の抗BSA抗体価をELISA法により解析したところ、BSAとともにpIL-1βを投与した区で顕著な抗体価の上昇がみられた。さらに平成23年度は、他生物種において細胞性免疫の成立に重要な働きをもつインターロイキン12(IL-12)の魚における機能を調べるため、ヒラメIL-12遺伝子のcDNAクローニングを行った。IL-12は2種類のサブユニット、p35およびp40がヘテロ二量体を形成する。魚類は数種類のp40遺伝子持つことが知られており、ヒラメにおいても2種類のp40遺伝子(p40aおよびp40b)がみつかった。ヒラメIL-12p35、p40aおよびp40bについて遺伝子発現解析を行ったところ、p35およびp40a遺伝子の発現は様々な臓器で観察されたが、p40b遺伝子は腎臓や脾臓でのみ発現がみられた。Edwardsiella tarda感染時における各遺伝子の発現動態を解析したところ、p40b遺伝子の発現量が腎臓において顕著に増大した。上記の研究の他、獲得免疫の成立に影響を与えると考えられるI型インターフェロン系の免疫応答に個体の生息水温が大きく影響することが示されたため、異なる水温で飼育した魚における免疫関連遺伝子の発現動態を解析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ヒラメを主な対象魚種とし、抗原とするタンパク質を組換えサイトカインあるいはサイトカイン遺伝子を発現するプラスミドベクターとともに投与することにより、各サイトカインが獲得免疫の成立にどのような影響を及ぼすのかを明らかとすることを目的とする。平成23年度はサイトカインの一つであり、炎症反応において重要な働きをするIL-1βについて発現ベクターを作成し、その効果を解析した。申請時には、組換えタンパク質を用いた研究も視野に入れていたが、活性型のタンパク質の調製に再現性がみられなかったことから、発現ベクターを用いた実験に絞り研究を進めた。その結果、IL-1β発現ベクターの筋肉内投与により、全身的な応答が確認できたことから、本実験系が魚類サイトカインの機能解析に利用可能であることが示された。また、ウシ血清アルブミンを抗原としてヒラメ血清中の抗体価の変化を調べたところ、IL-1β発現ベクターをアジュバントとして投与することで、抗体価が顕著に増大することが示された。さらに、細胞性免疫の成立に重要な働きをもつIL-12についても、全長cDNAのクローン化に成功していることから、研究開始時の目的は概ね達成できている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、発現ベクターを用いることでヒラメIL-1βの働きを解析することが可能となった。しかしながら、実際に投与した発現ベクターの影響により体内のサイトカイン濃度が変化したかどうかは不明なままである。そこで、平成24年度はサイトカインの定量法を確立し、発現ベクター投与に伴うサイトカイン量の変化を解析する。また、平成23年度は1種類のサイトカインしか獲得免疫に及ぼす影響を解析することが出来なかったが、平成24年度は本研究課題でクローン化したIL-12も併せて、課題設定時に計画していたいくつかのサイトカインについても影響を調べる。さらに、これらのサイトカイン発現プラスミドがワクチンの感染症防除効果に影響を及ぼすかどうかを調べるため、いくつかの病原体を用いた感染試験を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究を遂行するために、分子生物学的研究に必要な試薬およびプラスチック器具類、ならびに実験に用いる試験動物および飼育機材を購入するために消耗品費を使用する予定である。また、得られた成果を学会で発表し、さらに投稿論文として公表するため、旅費ならびにその他費用を使用する。
|