研究課題/領域番号 |
23780215
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小檜山 篤志 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (60337988)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Alexandrium tamarense / 増殖 / 分泌タンパク質 / 培養上清 |
研究概要 |
これまでの報告から,有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseの培養上清中には増殖を促進する成分が含まれる可能性が考えられる.そこでまず,A. tamarenseの培養上清に存在するタンパク質成分を電気泳動によって確認した.その結果,複数の成分が存在し,約20kDaのタンパク質が主成分であること,本成分は増殖段階において,培養上清中のタンパク質に占める量は対数増殖期初期でやや多い傾向が見られたものの,ほぼ一定であり,糖タンパク質である可能性が示唆された.さらに,A. tamarenseの増殖には他の藻類との競合も関係することから,培養上清を限外濾過膜で濃縮し,高分子画分を珪藻に添加して培養した結果,添加した上清中には増殖を阻害する成分が含まれない可能性が示唆された. 次に,A. tamarenseのタンパク質性の増殖因子の探索を目的として,近縁種A. catenellaのデータベースを用いて分泌タンパク質の探索を行い,データベース内に多数存在し,N末端側にシグナルペプチドを有するクローンを見出した.そこで塩基配列を参考にcDNAクローニングを試みた結果,A. tamarenseにおいても同様の塩基配列を有するクローンを得ることができ,推定アミノ酸配列のN末端側には推定シグナルペプチドが存在し,システイン残基が多いことから,AtCRP (A. tamarense cysteine rich protein)と名付けた.さらにAtCRPを酵母Kluyveromyces lactisを用いて発現を試みた結果,分泌タンパク質として発現させることに成功した. これまでに,A. tamarenseの培養上清中のタンパク質に関する報告は殆ど無いことから,本研究をさらに発展させることより,増殖のみならず細胞間コミュニケーションの分子機構をも明らかにできるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養上清中に存在する主成分のタンパク質に関して,アミノ酸配列の決定を複数回あるいは手法を変えて試みたものの,決定するには至らなかった.したがって,平成23年度の目標に達することができなかったと考えた.また,他の藻類とA. tamarenseとの関係が,それぞれの増殖に及ぼす影響を調べる内容に関しても,高分子のみではなく,低分子成分が他の藻類に与える影響や,他の藻類が産生する成分がA. tamarenseに与える影響に関しても調査する必要性があり,結果が不足しているものと考えた.しかしながら,以上の内容に関しては,平成24年度において速やかに遂行できるものと考える.また,分泌タンパク質AtCRPの解析では,発現系においてコドンを置換する必要性が考えられたものの,組換え体の作製まで達することができたため,目標を十分に達したものと考えた. 以上の結果から,目標に対してやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はまず初めに,A. tamarenseの培養上清中に主成分として存在するタンパク質のアミノ酸配列を決定し,cDNAクローニングを試みる.アミノ酸配列の決定には,本研究機関内の研究者の協力を得て,新たな技術を用いた解析を試みる.このとき,AtCRPと培養上清中のタンパク質が同一である可能性も想定して実験を行う.AtCRPのKluyveromyces lactis発現系では,A. tamarenseのコドンのままでは発現が低レベルであると思われたため,コドンの置換を行って組換えAtCRPの発現を試みる.さらに,組換えAtCRPおよび培養上清中のタンパク質のA. tamarenseおよび他の微細藻類へ与える影響を確認する.AtCRP等がA. tamarenseの増殖を促進することを確認できた場合には,それら成分の細胞周期と発現,あるいは環境要因と発現との関連性について調べる.これまでに,細胞周期のチェックポイントに関与するサイクリンAがA. tamarenseにおいて報告されている.細胞周期を調べる上でもマーカー遺伝子が重要であると考えられるため,本遺伝子についてcDNAクローニングおよび発現解析を行う.また,標的としている成分が増殖因子ではない可能性も考えられるため,他の低分子成分である可能性も含めた検討を同時に進行させる. A. tamarenseは他の微細藻類との競合関係が示されているものの,その競合に関与する成分等は未だ不明である.そこで今後は,他の藻類が本種の増殖を阻害する因子,あるいは本種が他の藻類の増殖を阻害する因子についてより詳細に検討し,その精製および同定を試みる. 以上の結果によって得られた因子と温度や栄養環境等とその発現について解析を行うことにより,A. tamarenseの増殖と環境要因との関連性について分子レベルで明らかにしようと試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の後半に,推定分泌タンパク質AtCRPのペプチド抗体の作製を依頼したが,製品の納入が平成24年度になることから,支払いが24年度に入り込んだ.また,平成23年の震災により所属施設が移転し,現在の研究施設は一時的な狭い場所であるために,新たな機器の設置が不可能であった.平成24年度には施設が整い,機器の購入が可能であることから,これらに対する費用を繰り越した.平成24年度は,A. tamarenseや他の微細藻類の培養に関する消耗品,タンパク質発現および精製に関する消耗品,クローニング,塩基配列の解析や発現解析に用いる消耗品を購入予定である.とくに,タンパク質や低分子化合物の精製,タンパク質の発現等に関して費用がかさむものと想定する.さらに,微細藻類をカルチャーコレクションより購入する費用や,得られた結果についてまとめて発表する際の費用についても計画している.
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