世界的に魚類養殖が増大する中、その飼料の主原料である魚粉の減少・価格高騰が大きな問題となっている。魚粉に代わる植物性原料として量的・質的・価格的に最も利用性が高いのが大豆油粕(SBM)であるが、SBM給与により胆汁量や胆汁成分組成に異常をきたすことが分かってきた。そこで本研究はニジマスをモデルとして、SBM給与に起因する胆汁生理異常の発生メカニズムの解明を目的とした。 前年度の研究により、ニジマスから胆汁生理に重要な遺伝子を11種新たに同定し、遺伝子発現量の測定系を確立した。本年度は、魚粉主体飼料(FM)とSBM主体飼料(SBM)を作製し、ニジマスを用いて10週間の飼育試験を実施した。飼育試験終了後、確立済みの測定系にて胆汁生理に重要な遺伝子の発現解析を行った。その結果、肝臓での胆汁酸合成に重要なCYP7A1およびCYP8B1と、腸管にて胆汁酸輸送体として働くASBTの遺伝子はSBM飼料給与区にて有意に低くなっていた。また、腸サック法を用いて新たに胆汁酸取り込み能を調べたところ、SBM飼料給与区では、FM給与区に比べて有意に低い結果となった。以上より、ニジマスでは、SBMを給与することによって、胆汁酸の合成と再吸収が阻害され、その結果胆汁酸量が減少するものと考えられた。本研究により胆汁生理に関わる分子が魚類で初めて多数同定されると共に、これまで不明であったSBMが胆汁生理へ及ぼす生理阻害作用のメカニズムの一端を明らかにすることができた。
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