研究概要 |
韓国では,1997年の規模化促進直接支払制度以降,9つの直接支払制度を導入してきた。ところが,2000年代に入り米韓FTAなどFTA戦略に邁進し,本格的な農産物市場の開放に向かうなかで,9つある直接支払制度を「経営安定型直接支払い」と「公益型直接支払い」の2つに改編する計画を打ち出した。 「経営安定型」は,規模拡大した農家の経営不安を取り除くことを目的としており,①一定水準以上の経営規模の農家(主業農家)が対象であること,②農家経営単位での支払いであること,③そのためすべての品目が対象となること,が特徴である。交付は,農産物価格が下落もしくは生産費が上昇した結果,基準の農業所得(直近5年のうち最高・最低を除く平均)より当年の農業所得が低くなった場合,その差額の85%を直接支払いで補填するものである。 他方「公益型」は,農家の基本的な所得補填を目的とし,すべての農家が交付対象となるように水田・畑等ともに対象としている。ただし,農業の多元的機能を維持するために,①直接支払いプログラムへの参加,②農地形態および機能の維持,③農薬や化学肥料の使用基準などの条件を課す予定である。 本格導入に向けて,2010年は農家4,420戸を対象に,農業生産額に占める比重と所得の変動幅が大きく,かつFTAによる被害が予想される9品目で,11年は9,798戸に対し20品目で,12年は35品目で,シミュレーションをおこなっている。ところが,地域及び品目の多様性,FTAを通じた被害品目の多様性,さらには韓国では農業所得税を課していないため農業者所得の把握が困難なことなどから,導入に向けたさらなる検討をおこなうにとどめている。その一方で,FTAへの喫緊の対応が求められることから,FTA被害補填直接支払制度や畑農業直接支払制度などFTA対応の直接支払いの整備が進められている。
|