本研究では、ASEAN地域の貧困削減に際して、どのような農村開発戦略が効果的かを、タイ、カンボジア、ベトナムのマイクロデータと研究代表者自らが行った家計調査ミクロデータの双方を用いて分析を行った。『世界開発報告2008 開発のための農業』では、農業生産性の改善、都市-農村間の移動、農村経済の多様化が開発戦略の3つの柱となるとされているが、カンボジアの例を見ると、例えば必ずしも都市-農村間の移動が経済厚生を高めているわけではなく、子女の教育や健康にとって問題となる可能性も指摘された。更には、農業生産性の向上が見られていても、急激な機械化などが逆に農業生産の非効率化につながっている可能性も指摘できた。また、水害が多発する地域での調査結果においては、同一地域内においても水害の発生確率の高低によって、乳幼児の健康状態に格差が出ることも明らかになった。 空間計量経済学の知見を用いて分析を行ったタイの貧困削減の論考では、地域の空間的相互依存関係を無視した分析には大きなバイアスが生じていることも明らかにした。更には、タイが貧困削減政策を含む様々な社会福祉政策を今後実施していくための財源に課題があると考え、マイクロシミュレーションに基づく厚生分析を行った。結果からは、現行の税率を若干上昇させるだけであれば、人々の効用はほとんど減少せず、政府の歳入は大幅に増加することが明らかになった。これらの知見はタイのような中進国が直面している税制改革にとって有用な情報となるだろう。このような新たな知見を複数提示できた。 なお、本研究の成果は既に何本かの学術論文として出版しているが、今後も2~3本の刊行が予定されており、研究成果の公開という点でも満足のいく結果となった。今後は、こうした研究をアジアのみならずアフリカとの比較という視点からも検討を行い、対象地域を拡大することも検討している。
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