稲作法人経営を対象として、①農業経営における内部資金調達の実態の把握,ならびに、②経営展開のなかで内部資金調達がどういった機能を果たしているかについて、日本政策金融公庫の財務データ分析と役員借入金が多額となっている農業法人のケーススタディにより検討した。得られた知見は次の通りである。 第1は、収益性が低く内部留保を実施できない経営が役員借入金による資金調達を行っているという点である。稲作法人経営における役員借入金は、そのような内部資金調達を行っている経営においては特に多額なものとなっており,また,それらは経営の存続にとっては不可欠となっている.具体的には,総資産に対して約35~40%を経営内部からの資金調達に依存しており、これら内部調達した資金の存在によって、ようやく短期・長期の財務安全性を一定水準に保ち得ていることが確認された。 第2は、そのような内部調達した資金は償還されることがほとんどなく、蓄積し続ける傾向があるという点である。投資のための役員借入金は、ある面では自己資本の増資とみなせるが、しかし、事例経営に見られたように投資以降に収益生の低下が生じると、役員借入金の償還は困難となり、自己資本比率の低下から外部からの融資も困難となるなかで、資金繰りを目的に役員借入金が増加するという悪循環をもたらす構造となっている。 これらのことから、役員借入金等の内部資金調達は、経営の危機的状況に対するいわば応急手当という面では有効な対策といえるが、それに過度に依存することは根本的な問題解決の先送りになるといえよう。したがって、低収益性で自己資本比率が低いために役員借入金に依存せざるを得ない体質の経営においては、実現性のある役員借入金の償還計画を策定するとともに、収益性の改善を図りつつ役員借入金の償還を進めていく取り組みが必要であることを指摘した。
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