研究課題/領域番号 |
23780244
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大澤 和敏 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (30376941)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 農業工学 / 環境調和型農林水産 / 炭素動態 / 土壌侵食 / 水・物質循環 |
研究概要 |
本研究課題では,(a)土壌有機炭素の流亡・放出と土壌有機炭素含有量の関係の評価,(b)流域における炭素収支の算定,(c)圃場スケールおよび流域スケールの土砂・炭素動態モデルの開発,(d)流域における積極的・合理的な炭素隔離のための営農シナリオ解析,を具体的な目標としている。初年度にあたる平成23年度では,(a),(b),(c)を中心に研究を遂行し,以下の成果を得た。 沖縄県石垣島のサトウキビ畑において,土砂・炭素動態に関する現地観測を実施した。その結果,不耕起状態で行われる株出し栽培区では,苗を新植する夏植え栽培区と比較して,土壌侵食量,土壌侵食に伴う有機炭素流出量,土壌呼吸量が小さかった。土壌の有機炭素含有率は株出し栽培区の方が大きく,夏植え栽培区では減少傾向にあった。また,異なる土地利用条件下における土砂・炭素動態を短期間ではあったが現地観測によって評価した。その結果,土壌侵食量および有機炭素流出量はサトウキビ畑およびパインアップル畑で大きく,牧草地,水田,そして森林域で小さい傾向にあった。これらより,土壌の炭素貯留機能は土地利用や農地の管理方法によって顕著に異なることが分かった。 沖縄県石垣島轟川流域において現地観測を開始した。水位計,電磁流速計,濁度計を河川内に設置し,流量および土砂輸送量を連続的に捉えた。また,河川水を自動採水器によって採取し,有機炭素濃度を測定した。その結果,7ヵ月の観測期間で土砂輸送量は1552t,有機炭素輸送量は54tであった。 八重山地方の3流域において,土地利用形態の違いによる土砂流出特性を観測値や解析モデルを用いて評価した。その結果,土砂流出は土地利用形態と密接な関係があり,農地面積率が大きい流域では土砂流出量が大きい傾向にあった。さらに,勾配等の地形条件や流出率に寄与する土壌・地質条件もまた土砂流出に影響を与えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる平成23年度では,当初の計画の通りにほぼ遂行できた。特に,試験圃場における土壌有機炭素の流亡・放出に関する現地観測を実施し,土壌の炭素貯留機能を土地利用や農地の管理方法の観点から評価できた点は,本研究課題を遂行する上での貴重なデータが得られたと自己評価できる。また,当初の計画では,対象流域を2流域としていたが,それに1流域加えた3流域における解析を実施した点は,計画以上に進展している点と言える。しかし,土砂・炭素動態モデルの開発に関して,現段階では土壌侵食や土砂動態の解析のみに留まっているため,炭素動態を組み込んだ形で解析を進めることが課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に繰り越した研究費が約92,000円あったが,3月の出張費の支出日が4月にずれ込んだためであり,予算の執行は概ね計画通りであった。(a)土壌有機炭素の流亡・放出と土壌有機炭素含有量の関係の評価:前年度の現地試験を引き続き行い信頼性の高い実測データを蓄積する。(b)流域における炭素収支の算定:前年度と同様の現地観測を継続し,年間を通した炭素動態を把握する。(c)土砂・炭素動態モデルの開発:WEPPの土壌状態変動過程に有機炭素の分解過程を組み込み,侵食・浸透過程に有機炭素の流出過程を加えた形でモデルを開発する。(d)炭素隔離のための営農シナリオ解析:土壌中の炭素貯留量の程度により数段階のシナリオを作成し,土砂・炭素動態を評価し,合理的な低炭素放出型の農地および流域管理法を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画にあった通りに研究費を使用する見込みにある。次年度に繰り越した研究費が約92,000円あったが,3月の出張費の支出日が4月にずれ込んだためであり,実質の繰り越し額である約6,000円は消耗品等の物品費に加える。
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