研究課題/領域番号 |
23780245
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前田 滋哉 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00346074)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生態環境 / 最適化 / 水理学 / 数値計算 |
研究概要 |
本研究の目的は,開水路における水理解析と最適化理論を融合した手法を提案し,魚類生息地のより合理的な水理設計を支援することである.従来の国内外の研究の多くは魚類生息に関する水域適性の事後評価にとどまりがちであり,利水・治水と生息地保全のような高度なバランスが要求される設計法の体系化に十分貢献しているとはいえない.そこで,水路内に望ましい水理環境が生じるような植生,魚巣,置き石等の環境モジュールの配置を決定する最適化モデルを開発する.すなわち,まず水路における流速,水深分布を再現する水平2次元数値モデルを開発する.このモデルで水路の水理解析を行った上で,魚類生息環境の設計における利水,治水,保全に関する目的,物理的・社会的制約を最適化モデルに盛り込む.これを解くことにより,より合理的な環境配慮工の施工位置に関する代替案を導くようにする. 平成23年度においては,滋賀県の農村地域における排水路を対象に,水理観測の実施および現地周辺の地理的情報,土地利用,気象条件の整理を行った.次に,環境モジュールとして数値的取扱が最も容易と判断した置き石を選定し,これを排水路に最適に配置することで魚類生息環境としての「望ましさ」を最大化させるという問題を設定した.望ましさの指標として,HSI(生息場適性指数)の面積を重みとした平均である生息場ポテンシャルを最適化問題の目的関数とした.最適化手法として,遺伝的アルゴリズム(GA)を基礎としたシミュレーション-最適化法を開発した.すなわち,特定の置き石配置により生じる流況は,水平2次元の運動方程式と連続式を有限要素法で解く流れのシミュレーションで推定した.そして生息場ポテンシャルが最大になるようGAの世代交代を進めた.仮想水路区間における置き石配置問題にシミュレーション-最適化法を適用し,妥当と考えられる数値計算結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核心は,水路の流況を詳細に推定したうえで,魚類生息環境を向上させるための設計支援に資する最適化モデルを開発することにある.平成23年度においては,現地排水路での魚類生息状況の調査は実施できなかったものの,水路の流況のシミュレーションモデルと連携した置き石配置の最適化モデルを完成させることができた.このモデル化については当初予定より若干進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,現地観測データを用いた流れのシミュレーションモデルの検証および最適化モデルの改良を行う.最適化モデルを用いて,排水路について多様な上流端流量や水深といった異なる水理状況を想定した場合に置き石の最適配置がどうなるか数値的に検討する.また,現在最適解の導出に長時間の計算を要していることから,導出方法を洗練させることも課題とする.また,現地の排水路における調査を行い,実際に設置されている,もしくは設置の検討が妥当である環境配慮工について,その妥当性や改善策を導くことができるモデルを開発する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,電磁流速計の納品が予定より遅れたため,農村地域の現地魚類観測に適した時期にあまり現地調査ができなかった.また,最適化モデルの定式化を進めるうちに数値計算を優先することが全体の研究遂行上効率的であることが判明したため,現地観測頻度を予定より削減した.以上の理由から,「実施状況報告書(収支状況報告書)」の「次年度使用額」が0円以外となった. 平成24年度では,研究対象の河川や水路における流速,水深,水温を中心とした水環境の時間的変化を,現地観測により把握する.また,魚類生息状況調査も行う.水平2次元の流れモデルを用いた水理解析を行い,必要に応じてモデル式やモデルパラメータの修正を行う.最適化問題を解いて得られた知見を現場と比較し,最適化計算を繰り返す.計算結果を基に人工水路の改善法について考察し,知見を整理する.さらに,研究成果を国内の学会および国際会議(生態水理学国際シンポジウムISE 2012,ソフトコンピューティングと知能システムに関する国際会議および応用知能システムに関する国際シンポジウムSCIS-ISIS 2012)にて口頭発表する.また,学術誌に論文を投稿する.
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