本研究の目的は,開水路における水理解析と最適化理論を融合した手法を提案し,魚類生息地のより合理的な水理設計を支援することである.従来の国内外の研究の多くは魚類生息に関する水域適性の事後評価にとどまりがちであり,利水と生息地保全のような高度なバランスが要求される設計法の体系化に十分貢献しているとはいえない.そこで水路内に望ましい水理環境が生じるよう,環境モジュールのひとつとして複数の置石の配置を決定する最適化手法を開発した. 水路の魚類生息地としてアユの産卵場を取り上げ,手法の具体的な開発と検証を進めた.近年国内外で活発に用いられつつある生息場適性指数(HSI)を生息地の価値の定量化に用いる際,水路内の流速と水深に対するアユの選好性に関する既往研究と有限要素法を用いた定常開水路流のシミュレーションを組み合わせた.平均HSIを最大化する,水路床へのコンクリートブロックの最適配置問題を設定した.この問題の求解法として,流れのシミュレーションと遺伝的アルゴリズム(GA)を組み合わせたシミュレーション・最適化法を提案した.最終年度である平成24年度では,具体的に,仮想水路区間における数値計算でモデルの適用可能性を検証した. 本研究により,次に取り組むべき以下の課題が明確になった.すなわち(1)より正確な生息場評価のため,選好曲線のあいまいさを最適配置の計算段階で処理できる方法論の開発,(2)置石以外の環境配慮工(たとえば,魚巣,植生)も選択肢とできるような最適化手法の開発,(3)複数の魚種の共存を前提とした最適化手法の開発,などである.
|