研究課題/領域番号 |
23780246
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井上 一哉 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00362765)
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キーワード | 硝酸性窒素 / 使い捨てカイロ / 鉄 / ランダムウォーク粒子追跡法 / マクロ分散 |
研究概要 |
地下水の硝酸汚染は農地からの排水や窒素肥料の浸出,集約的な家畜飼養などに由来する.硝酸性窒素汚染の対策は,農地などの汚染源を対象としていないため,本研究では,前年度に引き続き,硝酸汚染の軽減と循環型社会の構築への貢献を視野に入れて,特に,使い捨てカイロの主要成分である鉄粉に焦点を当てることで,混合状態に応じた効果の定量化,ならびに,時間経過に伴う劣化について検討した. 硝酸カリウムを用いたカラム実験に,濃度変動に関する時間モーメント法を導入することで,遅延係数ならびに,減衰定数,マスバランスを定量化した.その結果,ゼロ価鉄を用いると,硝酸性窒素の移動時間の遅延,ならびに,硝酸性窒素からアンモニア性窒素への還元により硝酸性窒素濃度を低減する効果が得られた.さらに,ゼロ価鉄の経時変化を検討したところ,地盤内に投入して約1か月経過した後も硝酸性窒素の遅延係数の変化は見られず,遅延の効果は持続した.一方,硝酸性窒素の質量減衰量およびアンモニア性窒素の生成量は低下するものの,約1か月程度はゼロ価鉄の利用により硝酸汚染を軽減する可能性を指摘できた. 加えて,硝酸性窒素の広域輸送に関する数値解析手法を発展すべく,溶質のマクロ分散を評価可能なランダムウォーク粒子追跡法を開発した.ランダムウォーク粒子追跡法に時間・空間モーメント法を融合した結果,地盤の不均質度に関わらず,類似したマクロ縦分散長の結果を導いた.一方,粒子群の初期配置は空間モーメント法によるマクロ横分散長の推定に大きく影響を及ぼした.また,評価要素にてマクロ分散長を推定すると,マクロ縦分散長は評価面よりも小さく,マクロ横分散長はほぼ同一の推定値となった.マクロ横分散長の化学的不均質性への依存度は低い一方で,化学的不均質性の増加に伴って,マクロ縦分散長は増加する傾向にあり,物理的不均質性の高い場ほど化学的不均質性の影響が顕著に現れた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カラム実験に研究成果は良好であり,種々のパターンについて,網羅的に実験データを取得できている.また,フィールド実験の準備も順調に進めている.さらには,ランダムウォーク粒子追跡法の開発状況についても良好であり,数値解析的側面からも研究成果を創出できている.これらの点を踏まえて,おおむね順調に進呈していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
準備を進めてきたフィールド実験について,黒ボク地盤を対象として実施する.また,不均質地盤を想定した中規模模型実験を実施し,逆解析と時間モーメント解析にて物理量の定量化手法を構築する.さらには,ラボ実験の結果と比較して,フィールドの特性を抽出し,同時に,非破壊分散推定手法のフィールドへの適用性を検証する. 加えて,ランダムウォーク粒子追跡法により長期・広域予測モデルを構築し,数値解析的側面から定量化する.また,硝酸予防の効果について,新たな指標を導入することにより,使い捨てカイロの使用に関する効果について,新しい視点から評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
フィールド実験をセットアップし,実験の遂行に関連して,実験実施の補助謝金の拠出を予定するとともに,予備・本番実験に向けて実験補助材料,水質分析のための試薬を購入する.また,前年度と当該年度の研究成果の発表ならびに情報収集のため,国内学会や国際学会に参加する.
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