研究課題/領域番号 |
23780249
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 昌佳 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80325000)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 有機汚濁 / 貧酸素化 / 水環境改善 / LED / 溶存酸素 / 水質予測モデル / 水環境動態解析 / 閉鎖性水域 |
研究概要 |
本研究では,有機汚濁が進行し,貧酸素化や無酸素化などの水環境劣化を抱える閉鎖性水域の環境修復に直接貢献することを目的とし,LED光照射による藻類の光合成の活性化を利用した水環境改善技術の開発を目指す.本年度ではその基礎的研究として,LED照射による溶存酸素ならびに水質・底質環境の改善効果を室内実験により検討した.光源として赤色・青色・白色のLED電球を使用し,点灯・消灯を各12時間とする明暗周期のもと2カ月間の照射実験を実施した. まず,溶存酸素の改善効果に関する結果として,(1)各条件で,溶存酸素は照射直後に急激な上昇と低下を示した後,再び緩やかに増加し,約1ヶ月経過後に約8mg/Lの定常状態に達したこと,(2)白色と青色の溶存酸素の変動は明暗条件に応じた周期性が強い一方で,赤色では顕著な日変化は見られないこと,(3)単位あたりの水中光量子量に着目すると,酸素生産効率は白色よりも青色で高いこと,以上3点が挙げられた.また,水質・底質環境の改善効果として,(1)嫌気的から好気的へと転じたことで水中・底質中の硫化物が減少すること,(2)窒素・リンの削減効果があること,(3)藻類の大量増殖による水質悪化の懸念は小さいこと,(4)底質表層部に酸化層が形成されることが示された.以上のように,室内実験によりLED周期照射による水環境改善効果は赤色,青色,白色のいずれでも期待できた. また,本改善技術の現地スケールでの実用化に向けて,その効果の定量的手法となる水理-水質モデルの開発を合わせて行なった.同モデルは,低次生態系モデルを組み込んだ鉛直1次元拡散モデルをベースとする水質動態予測モデルである.併せて,水域の貧酸素化に伴う嫌気的状態を定量的に評価するための酸化還元電位ならびに硫化物濃度の推定式を水環境モニタリングにより通じて導出した.これらにより,水環境改善技術の効果を定量的に評価することが可能となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に挙げていた室内実験による基礎的知見の収集を十分に達成でき,本研究で開発を目指す水環境改善技術の有効性が示された.すなわち,LED照射によって溶存酸素環境が改善され貧酸素・無酸素化が解消されること,また溶存酸素の生産・上昇によって窒素・リンの削減や底質の酸化的状態への回復などを期待できることが実験的に示された.とくに,LED照射に伴う溶存酸素の動態をその連続モニタリングにより解析し,溶存酸素の生産速度・消費速度の指標となるパラメータを算定できたことは有益な研究成果である.加えて,水中光環境の改善に連動した水質・底質環境との変化を実験的に把握できたことは,LEDによる水環境改善技術を構築する上で極めて重要な研究成果である. また,実水域にて本技術の改善効果を定量的に評価するために必要なツールとして,水理-水質モデルを構築し,その妥当性・有効性を示した.有機汚濁が進行した寡少な水中光環境下にある水域を対象とした溶存酸素の動態解析モデルを構築できたことは,本技術の効果を定量的に評価する上で,極めて有効な研究成果である.併せて,連続観測データに基づいた水環境解析手法の有効性を示すことができた.以上の成果は,実水域へスケールアップする際に,本技術の最適な制御や管理に対して大いに貢献できるものと期待される. 以上のように,今年度で得られた成果をもとに,水質改善技術の開発を水環境の評価・解析・予測の観点から補強し,「実水域レベルでの水圏環境の改善修復システム」を構築するという本研究の目的が着実に達成されていることが判断される.
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今後の研究の推進方策 |
LED照射による水環境改善技術の開発を,室内実験による基礎的情報・知見の集積,ならびに数値シミュレーションを通じた改善効果の定量的評価と最適制御ルールの構築の二つの視点から取組む.これは当初の計画通りであり,平成23年度の研究成果によって,その方向性の妥当性を確認されたので,推進方策の変更はない. 具体的には,(1)高度な数値シミュレーションを解析的根拠として,水質改善技術の開発を遂行すること,(2)水槽,メソコズム,実水域と順次スケールアップし,本技術の実現性を高めること,(3)本技術の改善効果を定量的に把握し,将来的な予測を通じた環境評価を行なうこと,以上3つを本研究課題の今後の推進方策とする.とくに,(2)においては実験水槽によるLED照射実験を通じたデータ(溶存酸素や窒素・リンを主とする水質の変動特性,および底質の物理化学的特性)の蓄積は極めて重要であるため,ここに力点を置いた研究を推進する.また,(1),(3)に関連する内容として,水質・水理モデルに準拠した水環境解析モデルの構築を通じて,水環境劣化の発生メカニズムの究明で得られる知見をLED照射実験に積極的にフィードバックさせることで,学術的な根拠に基づいた研究成果の評価を目指す. 以上のように,調査・実験(室内,現地)・数理解析で得られる知見を水質改善技術の開発にフィードバックし,これら三者の連携を図ることが本研究の基本方針であり,これにより,本研究の最終的なアウトカムであるLEDによる水質改善技術の実用化レベルへのスケールアップが達成せきると考える.
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次年度の研究費の使用計画 |
LED照射がDOを含む水質環境に及ぼす影響のさらなる定量化に向けて,室内実験によるデータの蓄積という視点から研究費の使用を計画する.すなわち,多様な照射条件の設定を可能とするためのLED光源と実験水槽,水質・底質調査に資するための化学分析試薬とそれに関連するガラス器具類,以上の実験関連の消耗品を購入する.また,本研究のキーとなる蛍光式DOメータの新規購入は予定していないが,pH・ORPの測定が可能なポータブル水質計(10万円前後)の購入を検討している.また,平成23年度の研究成果を公開するため国内外の学会発表を考えており,そのための旅費を計上する.なお,研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での課題はなく,以上は,交付申請時の平成24年度実施計画に沿ったものである.
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