研究課題/領域番号 |
23780249
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 昌佳 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80325000)
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キーワード | 有機汚濁 / 貧酸素化 / 水環境改善 / LED / 溶存酸素 / 水質予測モデル / 水環境動態解析 / 閉鎖性水域 |
研究概要 |
本研究では,有機汚濁が進行し,貧酸素・無酸素化などの水環境劣化を抱える閉鎖性水域の環境修復に直接貢献することを目的とし,LED光照射による藻類の光合成の活性化を利用した水環境改善技術の開発を目指す.本年度では,昨年度に実施した室内実験の実験精度を改良するとともに,十分な水質分析データに基づいたLED照射実験結果を解析することで,より詳細にLED照射による水環境改善技術の有効性を検討した.室内実験は,実水域で採取した貧酸素・無酸素水ならびに底質で密閉にした500mlビーカに対して,赤色・青色・白色の各LED電球を照射するものであり,昨年度の結果を参照して,点灯・消灯を各12時間とする明暗周期のもと1カ月間の照射実験を実施した. 本年度では,無酸素化による還元的な状態を初期条件とする強光照射と弱光照射,ならびに貧酸素の酸化的状態を初期条件とする強光照射の計3つの実験条件を設定し, LED照射開始時のDO条件やLEDの照射強度条件の視点からDOの動態特性を評価し,本技術の現地適用に資することを目的とした.その成果をまとめると,①藻類の最適光量の1/2程度であっても,DOは速やかに上昇し,無酸素化が解消されること,②水中光量子量 3μmol/m2/sが有効な水質改善効果を得るための下限値であり,これは光源からの照射範囲の設定や光源への付着藻類の影響を考えていく上で重要な情報であること,③照射開始時の酸化・還元的な水の初期条件の違いによってLEDが水質に及ぼす影響を大きくことなり,とくに,DOが若干存在する酸化的な初期状態での照射は結果として富栄養化を招くことが懸念され,短期間での照射等の管理が必要であること, ④藻類量と動物プランクトン量の釣り合いという視点から生態系の調和がとれる水質改善手が可能であること,が挙げられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により,本研究で提案するLED照射による水環境改善システムの現地適用に向けた有益な情報を得ることができた.すなわち,藻類の最適光量の1/2程度の照射条件で速やかな無酸素化の解消とそれにともなう水質改善効果を期待できること,また底質も含めた水環境改善効果を得るための光条件の下限値が得られたこと,さらに酸化的な貧酸素状態での長期間のLED照射は藍藻類の大量増殖を引き起こすため,照射期間や光強度の適切な管理の必要が示されたことは,LEDによる水環境改善技術を構築する上で極めて重要な研究成果である.本年度では,上記の研究成果に加えて,有機汚濁による水域の無酸素化に起因する水質悪化のメカニズムについて,現地観測を通じて定量的に評価ができた.つまり,嫌気的条件下での酸化還元電位,硫化物・リン酸態リン・アンモニア態窒素の動態に関する実験式を導いた.この成果は,LED照射による水環境改善技術の現地適用において重要な知見を与える.以上から,今年度で得られた成果をもとに「実水域レベルでの水圏環境の改善修復システムを構築する」という本研究の目的が着実に達成されていることが判断される.
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今後の研究の推進方策 |
予算申請時の当初計画に従い,LED照射による水環境改善技術の開発を,室内実験による基礎的情報・知見の集積,ならびに数値シミュレーションを通じた効果の定量的評価と最適制御ルールの構築の視点から取組む. 具体的には,①DO,植物プランクトン,窒素,リンを状態変数とする生態系モデルに基づいた水質解析モデルを援用することで,数理解析的根拠に基づいた本水質改善技術のメカニズムの解明とその効果の定量的評価を行なうこと,②水槽あるいはメソコズムでの水域スケールで本技術の有効性や実現性について検討し現地スケールでの適用可能性を実証することすること,③本技術の改善効果を定量的に把握し,将来的な予測を通じた環境評価を行なうことである.以上3つを本研究課題の今後の推進方策とする.とくに,②においては実験水槽によるLED照射実験を通じたデータ(DOや窒素・リンを主とする水質の変動特性,および底質の物理化学的特性)の蓄積は極めて重要であるため,ここに力点を置いた研究を推進する.また,①,③に関連する内容として,水質・水理モデルに準拠した水環境解析モデルの構築を通じて,水環境劣化の発生メカニズムの究明で得られる知見をLED照射実験に積極的にフィードバックさせることで,学術的な根拠に基づいた研究成果の評価を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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