研究課題/領域番号 |
23780260
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
折笠 貴寛 宮城大学, 食産業学部, 助教 (30466007)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 遠赤外線乾燥 / コマツナ / 色彩変化 / L-アスコルビン酸 / カロテノイド / 消費電力量 / 乾燥モデル |
研究概要 |
乾燥は、農産物の重要な加工操作の一つで、貯蔵安定性の向上や高付加価値化を図るために施される。乾燥処理を施すことにより、廃棄されていた青果物を乾燥食品として商品化できるため青果物の廃棄量を削減する効果が期待される。遠赤外線は,周囲の空気に吸収されず被加熱物表面に到達し加熱効果を表すことが特徴であり,熱風乾燥などと比べてエネルギー効率は良好である。しかし、遠赤外線乾燥の農産物分野への利用例は非常に少ない。そこで、本研究では熱風乾燥と熱風・赤外線併用乾燥の乾燥特性のみならず、色彩やL-アスコルビン酸含有量を測定し、遠赤外線乾燥の有用性について検討した。 供試材料にはコマツナを用い,試料の葉の部分のみを測定に用いた。遠赤外線乾燥は定温送風乾燥機に赤外線放射パネルを取り付け測定した。赤外線パネルと定温送風乾燥機の送風機能のみを使用した場合の乾燥温度は約50℃であったため、熱風乾燥の設定温度は50℃とした。また、試料内部温度は57℃であったため、熱風乾燥でも57℃の場合も測定した。乾燥時間はそれぞれ5段階(1,3,5,7,9h)として、含水率径時変化および乾燥速度を測定した。また、乾燥時における試料中のL-アスコルビン酸含有量および色彩についてはそれぞれRQ-FlexPlusおよび色彩色差計を用い測定した。 その結果,試料を温度50℃で乾燥させた場合、熱風・赤外線併用乾燥の方が乾燥速度は大きかったものの、L-アスコルビン酸残存量は低くなる結果となった。L-アスコルビン酸残存量は乾燥温度に依存すると考え、試料内部温度を同じにして同様の測定を行った。同じ乾燥温度の場合、L-アスコルビン酸残存量は熱風・赤外線併用乾燥の方が多かった。熱風・赤外線併用乾燥では、乾燥速度は一定を保ちつつ、より高品質な乾燥食品生産の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,遠赤外線を用いた青果物乾燥技術の最適化について研究を行う。具体的には,遠赤外線乾燥における乾燥特性の解析と酵素活性・栄養成分変化の測定を行い,その変動状況について予測モデルを構築する。これらの解析結果にライフサイクルアセスメント(LCA)手法による解析も加味し,コストや環境負荷にも配慮した新しい青果物乾燥の最適化システムの構築を最終的な目的としている。その中で,平成23年度は,対象試料として葉菜類(コマツナ)を選び,遠赤外線乾燥装置を用いて乾燥処理を行い,コマツナの遠赤外線乾燥特性を測定し,拡散理論を用いてデータを解析した。また,コマツナの遠赤外線乾燥におけるL-アスコルビン酸,β-カロテンおよびルテインなどの成分変化や色彩変化を熱風乾燥と比較し,遠赤外線乾燥の品質への影響を評価した。さらに,乾燥過程におけるエネルギー変化について予備的な解析を実施し,遠赤外線乾燥は熱風乾燥と比較して,乾燥処理における消費電力量を17%程度削減できる可能性を示した。これらの研究成果は当初計画で設定した平成23年度研究目標(乾燥特性の解析および含水率予測モデルの構築)をおおむね満たしており,当該年度の研究目標は達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,平成23年度で得られた成分変化の予備的解析データに基づき,遠赤外線乾燥過程における品質変化予測モデルの最適化を行う。具体的には,酵素活性(パーオキシダーゼ,ポリフェノールオキシダーゼ),抗酸化活性,機能性成分などの品質変化を測定し,遠赤外線乾燥が品質に及ぼす影響について調査する。抗酸化活性としては,DPPHラジカル消去活性を,機能性成分としてアスコルビン酸,リコピンおよびβカロテン含有量をそれぞれ測定する。平成23年度の研究では,乾燥温度を一定にして品質評価を実施したため,最適乾燥条件の検討が困難であった。この問題を解決するため,乾燥温度を数段階に設定し,得られた測定結果を反応速度論により解析することにより,遠赤外線乾燥における品質変化予測モデルの最適化を行う。また,色彩,硬度など乾燥青果物の品質に直接影響する項目についても測定を行い,これらの結果を加味することにより,品質の低下を最小限にする遠赤外線乾燥条件を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では,平成23年度中にHPLCを整備し,ポストカラム-HPLC法により,アスコルビン酸をはじめとする成分分析を実施できる体制を構築する計画であったが,東日本大震災の影響に伴う研究の一時的な中断と,研究代表者の所属機関変更(宮城大学から岩手大学に異動)により,HPLCを用いた成分分析に必要な備品を異動先に設置する必要に迫られた。そのため,HPLC関連物品の購入を平成24年度にずらすこととなり,次年度使用額(449,761円)が発生した。 平成24年度は,この予算(449,761円)を基に,ポストカラム-HPLC法を用いた成分分析に必要な実験設備を購入する。この装置の導入により,本年度の目標である遠赤外線乾燥過程における品質変化評価および予測モデルの構築に関する研究を飛躍的に推進できる見込みである。その他,物品(実験試料,試薬,ガラス器具,簡易計測装置など)の購入費,出張旅費(研究打ち合わせ,学会参加),論文印刷費用(平成23年度の研究成果を学会誌に投稿中であり,閲読が順調に進めば平成24年度掲載見込)を含め,当初計画していた平成24年度の研究経費(直接経費として1,100,000円)は予定通り執行する見込みである。
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