研究課題/領域番号 |
23780260
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
折笠 貴寛 岩手大学, 農学部, 准教授 (30466007)
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キーワード | 遠赤外線乾燥 / コマツナ / 色彩変化 / L-アスコルビン酸 / 抗酸化活性 / 消費電力量 / 乾燥モデル / 反応速度 |
研究概要 |
乾燥は、農産物の重要な加工操作の一つで、貯蔵安定性の向上や高付加価値化を図るために施される。乾燥処理を施すことにより、廃棄されていた青果物を乾燥食品として商品化できるため青果物の廃棄量を削減する効果が期待される。遠赤外線は、周囲の空気に吸収されず被加熱物表面に到達し加熱効果を表すことが特徴であり,熱風乾燥などと比べてエネルギー効率は良好とされる。しかし、遠赤外線乾燥の農産物分野への利用例は非常に少ない。そこで、コマツナを遠赤外線乾燥および熱風乾燥した際の品質変化(色彩変化,L-アスコルビン酸,β-カロテンおよびルテイン含有量変化)および乾燥過程における消費電力量について測定し,遠赤外線乾燥の有用性について検討した。また,比較的取り扱いが簡便なキウイフルーツを用い,熱風乾燥過程における硬度,L-アスコルビン酸,および抗酸化活性変化について測定し,反応速度論的解析を用いた品質変化予測モデルの構築を試みた。その結果,乾燥速度が同じ場合,遠赤外線乾燥後のコマツナ試料中のL-アスコルビン酸残存率は熱風乾燥後のそれと比較して,有意(p<0.05)に大となることが示された.色彩変化やβ-カロテンおよびルテイン含有量変化は遠赤外線乾燥と熱風乾燥で差が見られなかった.消費電力量に関しても遠赤外線乾燥は,熱風乾燥と比べて約17%少なくなることも示された.また,キウイフルーツの乾燥過程における硬度,硬度,L-アスコルビン酸,および抗酸化活性変化について,反応速度論に基づく適合性の高いモデル式を構築した。これらの結果は,乾燥青果物の製造過程において品質の管理や制御、または最適乾燥条件の検討に有益となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,遠赤外線を用いた青果物乾燥技術の最適化について研究を行う。具体的には,遠赤外線乾燥における乾燥特性の解析と酵素活性・栄養成分変化の測定を行い,その変動状況について予測モデルを構築する。これらの解析結果にライフサイクルアセスメント(LCA)手法による解析も加味し,コストや環境負荷にも配慮した新しい青果物乾燥の最適化システムの構築を最終的な目的としている。その中で,平成24年度は,葉菜類(コマツナ)を対象試料とし,遠赤外線乾燥装置を用いて乾燥処理を行い,コマツナの遠赤外線乾燥におけるL-アスコルビン酸,β-カロテンおよびルテインなどの成分変化や色彩変化に関して反応速度論的解析を行うとともに,果実類(キウイフルーツ)を対象として熱風乾燥過程における硬度,L-AsA残存率,および抗酸化活性変化などをターゲットにした品質評価予測モデル式を構築した。さらに,遠赤外線乾燥過程におけるエネルギー消費量について熱的解析を実施し,遠赤外線乾燥は熱風乾燥と比較して潜熱顕熱比が有意に大となることから,これが乾燥処理における消費電力量が17%程度小さくなる要因であることを示した。これらの研究成果は当初計画で設定した平成24年度研究目標(品質変化予測モデルの最適化)を満たすだけでなく,次年度の研究目標(環境負荷に及ぼす影響)についても前倒しして実施しており,当該年度の研究目標以上の成果を得たと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,平成23,24年度で構築した品質変化の予測モデル式に基づき,遠赤外線乾燥過程における品質変化予測モデルの最適化を行う。さらに,エネルギー消費量のデータも加味し,省エネルギーかつ高品質な遠赤外線乾燥条件の検討に資するデータ解析を実施する。具体的には,コマツナ以外の農産物について,乾燥特性のみならず,乾燥過程における各種品質変化(L-アスコルビン酸,カロテノイド,色彩など)について,反応速度論的解析を行い,遠赤外線乾燥における品質変化予測モデルの最適化を行う。これに加え,時間と温度の両方を関数とした品質変化のモデル式を構築することにより,各種農産物ごとに最適な遠赤外線乾燥条件を導出する。また,色彩,硬度など乾燥青果物の品質に直接影響する項目についても測定を行うとともに,パネルの位置や出力などの条件を変動させ,投入エネルギーの測定データも加味することなどにより,エネルギー消費量および品質の低下を最小限にする遠赤外線乾燥条件を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,年度末に予定していた研究打ち合わせが先方の都合により中止となったため,59,680円の残額が発生した。この出張は,平成25年度中に実施予定であり,全額執行する見込みである。また,物品(実験試料,試薬,ガラス器具,簡易計測装置など)の購入費,出張旅費(研究打ち合わせ,学会参加),論文印刷費用(平成24年度の研究成果を学会誌に投稿中であり,閲読が順調に進めば平成25年度掲載見込)を含め,当初計画していた平成25年度の研究経費(直接経費として900,000円)は予定通り執行する見込みである。
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