研究課題/領域番号 |
23780273
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
萩 達朗 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所・畜産物研究領域, 研究員 (00510257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 微生物 / 乳腺上皮細胞 / マイクロアレイ / 牛乳 |
研究概要 |
牛乳中には多くの細菌が存在しているが、病原菌以外の乳中細菌がウシ乳房に与える影響はわかっていない。乳房には細菌を認識する免疫機能があり、様々な細菌から刺激を受けていることは明らかで、病原菌以外の細菌が乳房に与える影響を調べることは、乳房健康管理の観点から重要である。そこで本研究は、病原菌以外の乳中細菌がウシ乳房に与える影響を明らかにするために、乳中細菌優占種のLactococcus lactisがウシ乳腺上皮細胞(BMEC)に与える影響について検討した。 熱処理したL. lactisをBMEC株に接種して6時間培養後、BMEC株のRNAを抽出し、L. lactis接種株と非接種株の遺伝子発現パターンをDNAマイクロアレイで比較した。 その結果、27665個のウシ遺伝子のうち、L. lactisを接種することで353個の遺伝子が1.5倍以上に発現上昇し、334個の遺伝子が3分の2倍以下に発現抑制した。炎症性サイトカインであるIL-8とIL-1β遺伝子の発現量増加はほとんど観察されなかった。Gene Ontology 解析の結果、発現変動した遺伝子の多くは細胞内シグナル伝達に関係し、その中ではG-protein signaling pathwayに関するものが多く、免疫系に関連するG-protein coupled receptor4やG-protein signaling regulator 3遺伝子の発現量が2分の1に低下していた。病原菌ではBMECの炎症性サイトカインが強く誘導されることが知られているが、L. lactisは炎症性サイトカイン遺伝子の発現にほとんど影響せず、G-protein signaling pathwayに影響することがわかった。これらの結果は、乳中細菌とウシ乳房との新たな相互作用の存在を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳中細菌優占種であるLactococcus lactisに対して反応するウシ乳腺上皮細胞(BMEC)の遺伝子をマイクロアレイで解析することにより、免疫系遺伝子を含め、様々な遺伝子の変動が起きることがわかった。また、病原菌がBMECに与える影響とは異なり、炎症性サイトカイン遺伝子の発現に対する影響は少なく、乳房の炎症を強く誘導しないことが示唆された。さらに、Gene Ontology解析で発現変動遺伝子群を整理した結果、G-protein signaling pathwayに関する遺伝子が多く変動することがわかるなど、次年度に行う定量PCRの標的遺伝子群を絞ることができ、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Lactococcus lactisに加え、これまでに牛乳中から優先的に検出・分離された5株の乳中細菌優占種に対するウシ乳腺上皮細胞(BMEC)の遺伝子応答を、定量PCRで解析する。具体的には、細菌とBMECを培養後、経時的にBMECからRNAを抽出して逆転写酵素でcDNAを作製する。これらに対して定量PCRを行い、細菌未接種のBMECと遺伝子発現量を比較する。なお、定量PCRの標的遺伝子は、マイクロアレイの結果をもとに選択した変動遺伝子で、免疫系に関与するサイトカインとG-protein signaling pathway関連遺伝子を中心に研究を進めていく。さらに、得られた結果を取りまとめ、学会等で成果発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題を推進するために、次年度の研究費は交付申請時の計画どおり使用する。なお、次年度使用額163683円は研究費を効率的に使用して発生した残高であり、プライマー合成や定量PCR試薬など消耗品に使用する。また、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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