研究課題/領域番号 |
23780277
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
下鶴 倫人 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (50507168)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 冬眠 / クマ / 代謝 |
研究概要 |
クマ類は冬眠期間中、一切の摂食・摂水を行わず、体脂肪を唯一のエネルギー源として長期にわたる絶食期間を乗り切る。本研究では、ツキノワグマにおける冬眠期間中のエネルギー産生・消費メカニズムに焦点を当て、冬眠期に生じる代謝機構の変化を明らかにすることを目的し、平成23年度は以下の研究を実施した。1.肝臓・骨格筋バイオプシー法を用いた脂質代謝・糖代謝に関わる代謝酵素の発現解析クマを麻酔により不動化し、バイオプシー法により肝臓および骨格筋組織を採取した。採取した組織よりRNAを抽出後、リアルタイムPCR法を用いてエネルギー代謝に関わる遺伝子群の発現量を解析し、活動期および冬眠期の遺伝子発現様式を比較した。この結果、肝臓では冬眠中、糖新生に関わる酵素(ピルビン酸カルボキシラーゼなど)やβ酸化、ケトン体産生に関わる遺伝子(脱共役蛋白質IIなど)の発現量が増加し、一方で解糖系や脂肪合成に関与する酵素群(グルコキナーゼ、脂肪酸合成酵素など)の発現量が減少することが分かった。このことより、クマは冬眠中、エネルギー代謝における中心的な役割を担う肝臓の代謝因子の発現量を協調的に調節することで血糖値を保ち、脂肪より効率良くエネルギーを産生していることが明らかとなった。2.安定同位体トレーシング法を用いた冬眠中の代謝動態の解明本研究項目では、安定同位体で標識されたエネルギー関連物質(グルコースなど)を体内に投与し、その血中代謝動態を明らかにすることを目的としている。本研究では安定した麻酔状態を長時間維持することが必要となるため、本年度は麻酔薬の選定および投与量の条件検討を実施した。これにより、塩酸チレタミンおよび塩酸ゾラゼパムの混合薬(ゾレチル)の単独投与、もしくはアセプロマジンとの併用により、心肺機能への悪影響を伴わずに安定した麻酔の導入および維持を行うことができることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二項目に大別される研究項目のうち、「肝臓・骨格筋バイオプシー法を用いた脂質代謝・糖代謝に関わる代謝酵素の発現解析」については肝臓および骨格筋の採材および解析をおおむね完了することができた。また「安定同位体トレーシング法を用いた冬眠中の代謝動態の解明」については麻酔プロトコールを確立するなど、次年度に向けた準備を完了することができた。このため、研究は順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「肝臓・骨格筋バイオプシー法を用いた脂質代謝・糖代謝に関わる代謝酵素の発現解析」については、骨格筋の採材数を拡充する必要がある。このため、2012年6月および2013年1月、3月(冬眠中)にサンプリングを実施する。また本年度採取したサンプルを用いた遺伝子発現解析を行う予定である。「安定同位体トレーシング法を用いた冬眠中の代謝動態の解明」については、冬眠期前に予備実験を実施し、使用するトレーサーおよび安定同位対比の解析手技を確立する予定である。確立した手技を用いて、冬眠中(1月および3月)に本実験を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入を予定していた生検装置を他研究者から借りることが可能となったため、購入金額分(約30万円)を節約できた。次年度は遺伝子解析および安定同位体トレーシング法の遂行に用いる物件費として約70万円を、研究の実施場所である阿仁クマ牧場への旅費(合計5回のサンプリングを実施予定)として約40万円を、また送料などの目的で約10万円を使用予定である。また、2012年8月にオーストリアで開催される第14回International hibernation symposiumにおいて本年度の成果を発表予定であるため、旅費等の目的で約20万円を使用する予定である。
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